きっかけ
収容施設(ガラクチック・パラダイス)に来て数日が経った。自給自足という目標の下、エフと共に畑や施設の復旧に急いでいるが、人手が足りないのもあってか作業はあまり進んでいるとは言えない。エフ以外のヴェリム二人に完全に避けられている現状、同じ施設にいながら会話をするどころか顔を合わせることもほとんどない。
人手不足、強いてはここで生活していく上で関係性が悪いのは良い傾向とは言えないのでどうにかエフ以外のヴェリムも協力関係に取り込みたいところだが、きっかけすら掴めていなかった。
「どうしよ」
机に向かい、タブレットと睨み合いながらペンを回す。数日過ごしてわかったが、軍は僕を見捨てているわけではないらしく、微々たるものではあるが予算の範囲内であればある程度の支給品は都合がつきそうだ。軍規上、人間もヴェリムも見殺しにするわけにはいかないということだろう。
微々たる予算をやりくりして施設の調整をしていくのは骨が折れそうだが、上手く使えば関係性を縮める突破口にもつながる。手っ取り早いのはK-10とV-97の欲している物を与えることだが、背後でなにをするわけでもなくぼうっとしているエフを見ているとヴェリムが興味持ちそうな物の候補はすぐに浮かんでこなかった。
「カナタ、難しい顔してる」
気ままなエフはベッドに座って足をばたつかせることに飽きたのか、興味本位でタブレット覗き込んでくる。
「ヴェリムと仲良くなる方法?」
「まあ、ね」
「私と既に仲がいいはず」
「エフとは、そうだけど。他の二人のことだよ」
「K-10及びV―97?」
「うん。エフはヴェリムの好きなものとか聞いたことない?」
「知らない。個体によって全く違う」
エフは起伏もなく述べるとまたぼうっと外を眺め始めてしまった。
そもそも新人である僕は授業以外でヴェリムと相対したことがない。つまりは経験値も知識もないわけで、打開策が思い浮かんでこないのも当然と言えた。
「うーん」
「悩むなら探ればいい」
「探る?」
急な提案に顔を上げると、エフは無表情のまま近づいてきた。
「K-10及びV―97の身体調査。任せて、隠密行動は得意」
瞳を輝かせるエフに、何も言い返せないまま連行されていた。
かくして身辺調査という名のストーキングが始まったのだが、なぜ僕まで付き合わされているのだろうか? 隠密行動が得意なのはエフであって素人には気配を殺すことなどできない。しかしながらエフに任せるのも不安、ここは付き合うしかなかった。
「来た」
エフが示す先には茶色の髪を揺らしながら鼻歌を奏でるV―97の姿。定位置である裏庭のベンチに腰掛けるとなにをするわけでもなく体を揺らしている。バレたらどうなるのだろう? 想像したくもない。早々に切り上げて別の策をと考えていたら、早口でエフが喋り出した。
「巨乳、鼻歌を奏でているところから歌が好きな可能性、手首にブレスレット、軍服に若干のカスタマイズ、ネックレスをたまに見てる……」
「ちょ、ちょい」
情報の洪水に急いでメモを取るがエフはお構いなしに、壊れた機械のように止まらない。
え、っと、巨乳で歌が好きでブレスレットしてて……。
「なに、書いてんすか?」
慌ててメモを取っていると、頭上から苛立った声がした。
明らかにエフではない声色に震えながら見上げると大きな胸を強調するように腕を組んでこちらを見下ろすV-97の姿があった。
「いや、これは」
「なになに? ……もしかして、ウチのことっすか? でストーキングとか、マジでキモイっす」
「じ、実は仲良くなろうと身辺調査を……。エフにも協力してもらって」
救援を求め、視線を移すが先ほどまで隣にいたはずのエフの姿はどこにもなかった。
詰んだ、きっとV-9の中で僕は変態以上のなにかに認定されているに違いない。
呆れた様子でため息をつくV-97にどうにか弁明しようと立ちあがった瞬間、二階からけたたましい轟音が鳴った。
「なに!?」
「会議室の方っす。あんたが来てから問題ばっかっすね」
「あはは……」
「あはは、じゃないっすよ。仮にあんたの意見を信じてエフ? おそらくF-21に協力してもらったなら次は赤髪のとこに行った可能性が高いっすね。まずいっすよ、自分の回りをうろうろしてるF-21に殴りかかってるかも。軽い戦争が起こるかもっすねー」
「ほ、本当に?」
「さあ? 自分の目で確かめてみればいいっす。ウチは興味ないんで」
V-97は背を向けてどこかへ行ってしまう。
もし彼女の言うことを信じるならエフとK-10を止めないと! ただの人間にヴェリムの仲裁なんて不可能かもしれないけど、黙って見てるなんてできない。
地面を蹴って駆け足で、会議質へ向かった。
「お手並み拝見っす。管理者さん」
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