自給自足

 整備はされていないが体を洗えるくらいには保たれているシャワー室にエフを押し込むと数分後、微かにシャワーの流れる音が聞こえ始めた。一先ず安心。エフが出てくるまで待とうかと思ったが、表示を見ると脱衣所もシャワー室も二つに分かれている。僕自身も汚れてしまっているし、待っている間に汚れを落とそうと中に入ったのはいいのだが、慌てて押し込んだせいか、エフが入った方の脱衣所に入ってしまったようで。


「あ、っと……」


 目の前にはエフが脱いだであろう軍服と下着が投げ捨てられていた。

 男の子には目には毒、だが整備士として恥ずかしがっている場合ではない。拾って洗濯かごにでも入れておくと手に取るとタイミング悪く、茶髪のヴェリムV―97が鼻歌を歌いながら脱衣所に入ってきてしまった。


「……管理者の次は変態になったんすか?」

「い、いや、これは」

「ヴェリムとよろしくやるって、そういうことだったんすね。見損なったっす。昨日、言い過ぎたかもって思ってたウチがバカみたいっすね」


 バンっ、と音を立てて脱衣所のドアが締められる。管理者終了のお知らせ、V-97の好感度は地に落ちたどころか地面にめり込んだ気がする。慌てて後を追いかけようとしたが悪いことは続くようで服を持った状態のまま、全裸のエフが出てきてしまった。


「えっと、洗濯しようか、と」

「そう」


 たどたどしい僕を追及してこないのが実にエフらしい。

おそらく、彼女の中では本当に僕が洗濯をしてくれると思っているのだろう。間違ってはいないのだが、全裸のまま近づいてこられるとさすがに困る。


「僕は先に管理室に戻ってるから」


 逃げ出すように風呂場を後にして、管理室に戻った。


 気が付くと外は夕焼け空が広がっている。休憩しようと横になっていたがいつのまにか寝ていたようだ。


「起きた?」


 視線を横に移すとエフが水筒を差し出してくれた。手に取りお礼を伝えるとエフは近くの椅子に腰かけ静かに僕を見つめている。


「ありがとう」

「ねえ」

「なに?」

「じきゅーじそくに向けて他にはなにをする?」

「えっと、そうだな」


 思った以上にエフは乗り気なようで無表情ではあるが興味津々な様子だ。

 自給自足に向けてやることは山のように浮かんでくる。畑もそうだが、施設の整備をするにはエフ以外のヴェリムの手助けも必要になってくるだろう。

 当面の目標というか、僕の理想としてはここにやってくるエンドたちのやりたいことができるような施設を作りあげていきたい。


「やること、たくさん?」

「たくさんあるね。忙しくなるよ」

「退屈するよりはまし」


 エフは微かに笑ってみせる。感情の振れ幅は少ないが、時折見せる表情が可愛らしくてつい、見惚れてしまう。自分の腹の虫が鳴るのも気づかないほどに。


「お腹空いたの?」

「そういえば、昨日からなにも食べてない」

「待ってて」


 気を利かせてくれたのか、エフは足早に部屋を出ていく。

 授業でヴェリムは食事をしなくても問題ないと聞いたことがあるが、食事をして消化、排せつする機能は持ち合わせていると習ったことがある。

一応ここは軍の関連施設だし、以前の管理者が持ってきたレーションやら乾パンがあるのかもしれない。楽しみに待っていると、駆け足でエフが戻ってきた。


「はい」

「え」


 開かれた手の中を見るとどこで捕まえて来たのか、虫が大合唱している。


「前に他のヴェリムが食べてた」

「へ、へー」

「カナタも食べる?」


 ぐい、と目の前に突き出されるが田舎で暮らしていたとしてもゲテモノを食べる習慣は持ち合わせていない。


「……今日は遠慮しておくよ」

「そう」


 食事の文化も教えないといけないかもしれない。

 この後、エフが持ってきた虫を餌に小川へ魚釣りに出かけたのは言うまでもない。


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