故郷への手紙
茸山脈
ある島からの手紙
史学科の資料室から、くすんだ茶色の封筒が出てきた。検閲済みの印の朱色だけが鮮やかに残るそれは、昭和十七年八月の手紙だった。
顔も名前も階級も知らない軍人が、ある島から故郷の家族へ向けた手紙。鉛筆で朗らかに書かれた文字は、勝利の喜びで満ちていた。
だけど、私は知っていた。二年後にその島はこの世の地獄と化すことを、大勢の民が二度と故郷の土を踏めなくなることを、軍人たちは皆戦死を遂げたということを。
それが誉高き行為とされていたことを。
手紙の中の彼は何も知らない。
教えても、きっと信じないだろう。
彼が手紙の後どういう道を歩んだか、私には分からない。
ただ、その無邪気な文面が、ひどく胸に刺さって離れなかった。
故郷への手紙 茸山脈 @kinoko_mountain
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