第518話 レイオン 上

「……レイオン……!?」


 ゴズメ王国では一角獣をレイオンと呼ぶようだ。


「王妃様。聖獣様──」


「──マグネラルと呼んでくれ。昔、人につけてもらった名前だ。使っておかないと忘れそうだからな」


 馬の世界で言葉は使わないってか? 一匹だけ人語を理解し、人並みに知性があるってどんな感覚なのかしら? わたしなら猿の中で生きているよう感覚なのかな? さすがに猿のおっぱいにはトキメキはしないけどさ。


「マグネラル様は、渦を浄化して欲しいそうです。ゴズメ王国としてお受けなさいますか?」


 まあ、やるのはわたしなんだけどね。聖騎士を連れてきてないから巫女に危険はさせられないしね。コノメノウ様に働かせるとしましょう。


「お受けすることはやぶさかではありませんが、娘を差し出すことはできません」


 ゴズメ王国にはタルル様がいる。聖獣として扱うことはできないと言っているのでしょう。けど──。


「さっきも言ったが、わたしは人を娶ろうとする趣味はない。妻はたくさんいるからな。これは依頼だ。受けるも断るもそちら次第。もし、受けてくれて成功したら報酬は払う。この角を差し出そう」


「角をですか? レイオンの角が折れたら死ぬのではありませんか?」


 あ、そんなこと言われていたわね。どうなの?


「それは迷信だ。角が折れるのはそれだけ弱い個体なだけ。生命力が強いなら角が折れたくらいで死ぬことはない。また生える」


 へー。そうなんだ。まあ、確かに角が折れたくらいで死んでたらたまったもんじゃないか。角なんて骨か角質が固まったもんだしね。さすがの一角獣もそれで死んでたらたまったもんじゃないでしょうよ。


「そ、そうなのですか。チェレミー嬢。王国としてお受けしたいところですが、渦は貴女のほうが詳しいでしょう。判断は貴女に任せます。責任はゴズメ王国が取ります」


 さすが王妃様。話がわかるお方だ。


「わかりました。マグネラル様の依頼を引き受けさせていただきます」


 まあ、最初から断るなんて選択肢はない。この世界で聖獣は特別な存在。敵に回すことはできないからね。


「用意しますので少しお待ちください」


「わかった。案内を残すので急がずきてくれ」


 マグネラル様が鳴くと、茶色い毛の一角獣が空から下りてきた。一角獣、空も飛べ──いや、駆けられるんかい! どんな理屈だよ!


「わたしの息子だ。そいつも人には興味ないから安心してくれ」


 ヒィヒィィィィンと鳴く息子さん。まだ人語は話せないらしい。


「ご配慮、ありがとうございます。では、お待ちください」


 王妃様たちに視線を向けて館に入った。

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