第519話 レイオン 下

「チェレミー嬢。本当にいいの? レイオンの依頼を受けて……」


 流れで言ってはみたものの、レイオンってのが引っかかるのでしょう。女癖悪いって評判の聖獣だからね。


「聖獣はウソをついたり騙したりはしませんよ」


 必要なことを言わなかったりはするけどね。


「小突くでない」


 あら失礼。感情が抑え切れませんでしたわ。オホホ。


「聖獣様からの依頼であり、渦関連です。どちらにしろ断ることはできません。それに、我が国としても理性的で知性的なマグネラル様との関係を築いておく必要はあります」


 マルリャーヤ村は辺境にあり、おそらくコルディーにも触れている大山岳地帯だ。ちなみにコルディーとゴズメ王国は隣接する関係で、大山岳地帯が壁となっている感じね。


「申し訳ありませんけど、今回の依頼はゴズメ王国が受けた形にして、わたし個人の依頼とさせてください。巫女は参加させません」


「貴女だけでやるつもり!?」


「いえ、わたし個人の依頼ですけど、コルディーにも関係あること。コノメノウ様にしっかりと働いていただきます」


 逃がさねーぞと、コノメノウ様の襟首をつかんだ。テメーに拒否権はねー。


「……そなたはもっと優しくなったほうがよいと思うぞ……」


 わたしはどこまでも優しいですよ。魔力タンクとして存在しててくれるんですからね。


「働いていただけるのなら一週間禁酒はなしにします」


「隠している酒も追加せい」

 

 もう隠しているの前提ですよね。いやまあ、隠しているんですけどね。


「わかりました」


 仕方がない。果実酒を出しておくとしましょう。この方はアルコール度数は関係なく、味が重要なタイプだからね。


「チェレミー様。また一人でいかれるつもりですか?」


 ジェンが割り込んできた。


「コノメノウ様と一緒よ。これほど安全なことはないでしょう」


「確かにそうですが、お二方でいかれるのは……」


「なら、ジェン。あなたがついてきなさい。あと、レオに乗りなさい。普通の馬ではついてこれないでしょうからね」


 わたしの愛馬──ではなく、愛鳥の鳥具にはいろいろ付与を施している。道なき道を難なく走れるでしょうよ。


「大丈夫。渦のことは八割方わかっているわ。残り二割はコノメノウ様で対処できるでしょう」


 世界樹の葉や聖水は補給した。対渦装備も万全。不測の事態が起きてもどうとでも対処できるわ。


「まずは朝食にしましょうか。お腹空いたわ」


 そう緊急性はない。しっかり食べてから出かけるとしましょうかね。


 その場の雰囲気を和らげ、食堂に向かった。

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