第516話 野良聖獣 上

「幸せだわ~」


 って言ったのがフラグだったのかしら? 巫女たち(あと、ルーセル様や王妃様も)と温泉に入った次の日。どこかに消えていたコノメノウ様が目覚めととも現れた。


「そなたに会いたい者を連れてきた」


 目覚め一発に不穏なことを仰る守護聖獣様。


「……聖獣様ですか?」


 この方が村人に声をかけられたくらいでわたしのところに連れてくるわけもない。連れてくるってことはコノメノウ様クラスの存在ってことだ。


「ただの野良だ」


「長老様のような方ですか?」


「あれよりは歳がいっておるな。まあ、わたしから見れば若僧だがな」


 ま、まあ、貴女は建国の前から生きていますからね。最低でも五百年は生きているとわたしは見ているわ。


「それでも数百年は生きた聖獣様なんですね」


「そうじゃないか? 野良に歳など関係ないからな」


 まあ、そうでしょうね。年齢を気にするなんて人くらいなものでしょうよ。


「館にきているので?」


「館に、と言うより館の前にきている」


「人化はできない方なんですか?」


「する必要がないし、人化は特殊能力みたいなものだ。聖獣だからと言って皆ができるわけではない」


 そうなんだ。人化って特殊能力なんだ。初めて知ったわ。


「では、すぐに向かいます」


 野良の聖獣様なら寝巻きでも構わないでしょう。あちらからしたら変わった皮を被ってんな、ってくらいでしょうからね。


「お、お嬢様! 館の前に!」


 メイドたち、いや、館中が大騒ぎになっていた。そりゃ、館の前に聖獣様がきたら騒ぐなってほうがおかしいわよね。


「落ち着きなさい。すぐに王妃様やルーセル様を起こして」


 この騒ぎで起きているでしょうけど、ここはゴズメ王国。なら、ゴズメ王国の聖獣様(あちらに国なんて関係ないでしょうけどね)と同義。わたしだけが立ち会ってはゴズメ王国として立つ瀬がないでしょうよ。


 まずはわたしが聖獣様と会いましょう。コノメノウ様の口振りからわたしに会いにきたのでしょうからね。


 玄関にゴズメ王国の騎士たちがおり、どうしたものかと戸惑っていた。


「わたしが出ます。騎士たちは通常の警備をしなさい」


 わたしが指示を出す立場ではないんだけど、ここまで乱れていたら落ち着かせるのが先決だわ。


「兵士たちは館の周りの警備を。聖獣様に不快な思いをさせてはいけません」


 コノメノウ様と意志疎通ができるなら聖獣様は理性と知性を持っている。暴れることはないとしても槍を向けられたら不快に思うでしょう。悪い印象をもたれないようにしないとね。


 騎士たちに扉を開かせて外に出た。

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