第513話 欲しいもの 下

 ラグラナの不満そうな顔に微笑み、用意が整うまで読書して過ごした。


 それから二日。夕食前に準備が整ったことを伝えられ、その日は早めに就寝。いつもの時間に起きて簡単な身だしなみをして馬車に乗り込んだ。


「アマリア。疲れは取れた?」


「はい。お嬢様のメイドたる者、いつでも体力魔力は万全にしております」


 いや、常に戦闘態勢を求めているわけじゃないんだから体調が悪けりゃ休んでも構わないわよ。メイドは他にもいるんだからさ。


「そう。優秀なメイドがいてくれて嬉しいわ」


 やる気に水を差すのも悪い。笑顔で応えておきましょう。


「ルーセル様は大丈夫ですか? 少し熱が出たと聞きましたけど」


 箱入り娘な感じのルーセル様には衝撃的な毎日だったでしょう。疲れが出て熱を出しても仕方がないわ。


「恥ずかしい限りです。わたしも毎朝ウォーキングをすることにします」


 こちらもやる気満々ですこと。まあ、無理しないていどにがんばってくださいませ。


「で、王妃様もいかれるのですか?」


 いや、王妃様もいくことは決まっていたけど、本当ならもっと早くいっているはずだった。それがわたしのことで日程が狂ってしまった。王妃業は暇そうでまったく暇じゃない。よく時間を作ってわたしのところにきていると思うわ。


 今回のこともスケジュール調整が大変だったでしょうよ。そこまでしなくともいいのにね。


「ええ。これはもう公務ですからね」


 なんの公務なんだか。まあ、これだけ渦に関わっていたら致し方がなしだけどね。ゴズメ王国最大の秘密を知った身だしさ。放っておくわけにはいかないでしょうよ。


 この馬車にはわたし、王妃様、ルーセル様、あとは王妃様の侍女が乗っているので話題はどうしても渦のことになってしまった。


 報告は各所から聞いているでしょうに、事の流れがわかっていないようだった。王妃様が頭が悪いのではなく、報告が悪いんでしょう。王妃様も忙しくてゆっくり整理する時間もないのでしょうしね。


 温泉までは三日から四日かかると言うので物語風に渦の発生からレベル7の渦を浄化するまでの話を聞かせた。もちろん、男に渦を宿らせた妖精のことは黙っておいたわ。まだ解決できてないことだからね。


「あなたにはどう報いたらいいのでしょうね? 事が大きすぎて金銭だけでは返し切れないわ」


「なにもいりませんよ。巫女を二人連れて帰れるだけで充分です。我が国にも渦を浄化できる者を連れて帰れるのですからね」


 本来、巫女を他国になんて全力で阻止することだ。国益に反するもの。


「それだけでは王国として体裁がつかないわ。このことを知っている者は多いのですから」


 と言われてもわたしは欲しいものは手に入れた。さらに欲しいものもできた。他になにが欲しいと問われたら「おっぱい」としか答えられないわ。


「勲章の一つでも構いませんよ。記念に飾っておきますので」


 どうするかはゴズメ王国に任せるわ。そんなことに頭を使いたくないからね。

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