第510話 元凶 上
渦を宿した男は、死んだ魚のような目をしていた。
「わたしを覚えているかしら? あなたの恨みを潰した女よ」
背後には国王陛下や侍従、護衛騎士がいるけど、ベールを脱いで顔を見せた。
死んだ魚のような目をわたしに向ける。でも、その瞳に感情が湧いてくることはない。だからって精神が壊れたような感じはなかった。
「ごめんなさいね。あなたになんの恨みもないけど、わたしはゴズメ王国側なの。あなたをさらに不幸にするわ」
「…………」
と、唇が動いた。
「……どうでもいい……」
「そう。どうでもいいならこれ以上はなにも言わないわ」
男は椅子に座らされ、後ろ手で縛られ、両足首を鎖に繋がれている。これで抵抗することはできない。
椅子から立ち上がり、男の頭に手を置いた。
男の記憶を引き出す付与を施し、その記憶をわたしの脳に転写していった。
一言で語るならよくある悲劇。世界に目を向けたらどこで似たような悲劇が起こっているでしょうよ。
その悲劇になんの興味もない。わたしはそこまで優しくはないしね。わたしが見たいのは渦を宿した経緯よ。
「……なるほど。あなたが元凶か……」
男から手を離し、椅子に座った。
「大丈夫か? 酷い汗だぞ」
「……魔力を使いすぎました……」
初めての付与魔法は変に魔力を消費するわよね。イメージを形にするのに使われるのかしら?
「侍女を呼べ! チェレミー嬢を部屋に運べ!」
考えるのも億劫になり、護衛騎士に担がれて神殿の部屋に運ばれた。
気を失うほどでもないので侍女に着替えさせてもらうことにした。
……最近、体を酷使してばかりだわ……。
まったく、わたしのスローライフはどこにいっちゃったのかしらね? おっぱいはそこにあるのに……。
「大丈夫? 気を確かに持って」
いい感じのところにあるおっぱいに手を伸ばしたら王妃様につかまれてしまった。そんな無慈悲な……。
絶望に気を失い、目覚めたらよく知る天井だった。今度、天井におっぱいの絵を貼っておこうかしら?
「気分はどう?」
視界に王妃様の顔が入ってきた。
「……あまりよくありません……」
おっぱいをつかめなかったことが悔いでしかないわ。
顔に手をやると、ベールを被ってないことに気がついた。あ、あのとき外したんだったわ。
「こんなに美しい顔を隠すなんてもったいないわ」
「わたしの顔は美しくありません」
美人から美しいと言われてもね。皮肉にしか聞こえないわ。まあ、わたしは顔よりおっぱいの美しさ重視ですけどね。
「そちらではどうか知らないけど、ゴズメ王国ではチェレミー嬢の顔は女神のような美しさよ。殿方たちの目がわからない?」
美人の基準なんて地域によりけり。でも、この世界ではロリ顔が美人の基準みたいだわ。おっぱいは貧乳が美しいみたいだけど。
……ゴズメ王国に生まれなくて本当によかったわ……。
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