第501話 作戦 下

「……あれは、人……?」


「渦に歪められたログライス伯爵領の民でしょうね」


 エルフだからって恨みをもたないってことはない。王政を敷いている限り、いや、暮らしている限り、恨み辛みは起こるもの。そこに渦が影響を与えたのでしょうね。


「ああいうのが厄介なんですよね。意思を持つということは思考できるということですから」


 まあ、渦を宿した本体の能力次第でしょうけど、今回の犠牲者はそこまで知恵が回るようなタイプではなかったようだわ。


「まんまと罠に嵌まるようでは渦もそこまで性能がいいということはないようですね」 


 前回の渦は当たりを引いたようでかなり被害を与えたようだしね。わたしはまだ運がいいのかもしれないわ。


「領民を後方へ。ライルス様は体力回復に専念を。ルーグベル様たちは魔獣を払ってください。渦はわたしが引き受けます」


 本体か渦かはわからないけど、わたしを驚異と感じたようでまっすぐこちらに向かってきているわ。あら怖いこと。


 闇の衣を纏いし領民は男性で、年齢はわからないけど、感じから若いのではないのかしら?


 いったいなにがあったのかしらね? わかり合えたら話を聞いてみたいけど、これはわかり合える状況ではないみたい。なら、しっかりと潰してあげるわ。わたしに慈悲はなし、よ。


 いったいどこにそんな獣がいたんだか、渦はたくさんの魔獣を引き従えている。それは聖騎士たちに任せ、わたしは渦をしっかりと見定めた。


「かなりどころか吐きそうなくらいの憎悪だぞ」


「吐かないでくださいね」


 妖精にゲロをかけられるほうが最悪だわ。


「大丈夫なのか?」


「少なくとも渦はわたしの領域に入りました。魔力はいただきますよ」


「好きなだけ使え。必要ならわたしの命をくれてやる」


「命はいりませんのでご遠慮させていただきます」


 勝つ算段で動いているのに、この国の守護聖獣を殺したとあればコルディーとの関係を壊してしまう。命を奪うことはできないわ。


 渦はまっすぐわたしのところに向かってくる。ん? もしかしてタルル様を見ている? 目標はわたしじゃないの?


「確か、渦は妖精を食らうんでしたっけ?」


「ああ。昔はたくさん食われたと聞いたよ」


 なるほど。渦は妖精を食らって力を得ているのか。妖精が住むゴズメ王国ならではね。


 渦はわたしの領域に入ったので、結界内を浄化する魔法で満たした──が、渦が濃いせいであまり効果は見せていない。


「タルル様。魔力をもらいます」


 浄化する魔法を濃くする。でも、やはり渦の歩みを止めることはできない。濃密すぎるんだわ。


「浄化するのは無理のようですね」


 結界は強化してあるから抜け出すことは困難でしょうから反転するとしてみましょう。

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