第502話 奥の手 上

「反転!」


 浄化ができないのなら方向性を変えてやる。


 これはレベル3で試して成功している──けど、ダメなようだ。わたしの力より勝っていて効果を打ち消しているわ。


「タルル様。魔力はどれほどです?」


「二割あるかどうかだ」


 反転に三割は使ったのにな~。それでもダメなのか。レベル5じゃなくレベル7になってんじゃないの? それとも本体の恨みがそれほど強いってこと?


「アマリア。魔力を八割もらうわよ」


「すべてでも構いません」


「八割で構わないわよ」


 それでも一級クラスの魔力量だ。王族クラスの魔力を使ってもダメならすべてを使っても効果はないわ。


 アマリアから八割の魔力をもらった。


「消滅!」 


 渦を分子レベルまで分解するイメージで作り出したもので、一級の魔力分ならちょっとした山を削り消したわ。決してメ○ローアとかではありません。


「お、物質であることは間違いないよね」


 霊的存在だったらお手上げだけど、魔力は粒子っぽい。なら、この世界の力は粒子で現れるんじゃないかしら? と思って消滅させる方法(イメージ)を考えた。


 それでも耐える渦とは厄介だわ。ほんと、よく聖女は浄化できたわよね。どんなチートを授かったのよ……。


「ダメなのか?」


「レベル4くらいはできたと思います」


 ハァー。ここまで厄介だとは思わなかったわ。消滅で倒せると思ったのにな~。


「……こんな国など滅んでしまえ……」


 おや。しゃべれるほど理性(?)が残ってたんだ。それともレベル4に落ちたから理性(?)が戻ったのかしら?


「それは困るわ。ゴズメ王国がなくなると次は我が国が狙われちゃうもの」


 まあ、そうなるかどうかはわからないけど。


「……お前も敵か……」


「そうね。あなたの敵よ。あなたを消滅させ、その思いを踏みにじろうとしているわ。なにも残らないほど消してあげる。もう誰もあなたのことは知らない。その思いも伝わらない。ただ、誰にも知られず惨めに消えていくのよ」


 そう挑発するけど、纏う闇が増えることはない。恨みで増幅することはないか。別のなにかを糧にしているのかしら?


 この人は渦のなにに適合したのかしらね。わからないことばかりだわ。ハァー。


「挑発してどうする?」


「わたしに集中してくれるように誘導しているだけです」


 魔獣を操っていたのでしょう。わたしに怒りを向けたら魔獣の動きが散漫になったわ。


「こんなときでも情報収集か?」


「レベル5の渦と遭遇したんです。もらえる情報は一つ残らずいただきますわ」


「まだ奥の手を持っているのか?」


「はい。持っていたことを忘れてました」


 すっかり忘れていた。最後の奥の手を持ってたことに。まさか使う日がくるとは思わなかったわ。


 頭の上に乗るタルル様をつかんでアマリアに放り投げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る