第500話 作戦 上

「……たくさんの者がこちらに向かってくるぞ……」


 ずっと黙っていたタルル様が口を開いた。


「そうですか」


「予想していたのか?」


 わたしの声音に察したようだ。


「まあ、そうなるだろうな~とは思っていましたね」


「それを見越しての作戦というわけか。いや、最初からそれが作戦だったか……」


 否定はしないでおく。我ながら酷い作戦を考えたと思うからね。


「皆様方。戦いの準備を」


 ジェンとアマリアは下がらせた。


 渦に悪意はない。自然現象に近いものだ。けど、生き物に影響、または憑依したとき、渦は意思を持つ。悪意を増幅させる。


 としか思えない動きをしている。そう仮定したとき、レベル5に達した渦はどんな動きをする? 人を憎み、人を襲おうとするのではないか? 


 確証はない。でも、聖女は渦との戦いを経て王国に平和をもたらしたとの文で締められていた。


 自然現象と戦うって表現もあるでしょうけど、各地を回ったという文もあった。いろいろ読み解くと、なんだか人と戦っているようにしか思えなかったのよね。


 そこでもう一つ仮説を立ててみた。


 渦は生き物の意思に反応するのではないか。意思の強さ、恨みの深さ、怒りの熱さ、それらが渦を成長させるのではないか、とね。


 これは賭け。わたしの仮説が間違っているならまた別の手段が取れる。


 けど、仮説が正しかったようだわ。


 ライルス様たちが領民を守りながらこちらに向かっていた。


 見捨てろと言って見捨てられるようなら聖騎士として、いや、人としてどうかしている。種族に関係なく騎士は名誉や誇りに弱いもの。ちょっと刺激してやれば簡単に正義の味方になってしまう。


 それが悪いとは言わないわよ。民としてはそんな騎士がいることが心強いでしょうからね。


 わたしとしては好都合。読みとおり動いてくれるんだからね。


 ……結構な数が生き残ったみたいね……。


 渦も誰彼構わず影響を与えるってことはないようね。誰かに集中したのかし?


「すまない。どうして見捨てられなかった……」


「想定内です。諦めろと言ったのはライルス様たちの正義心を刺激するためです。最初から領民を見捨てるような方々だとは思っていませんわ。必ず領民をここに連れてくると確信していましたよ」


 フフと笑ってみせた。


「アハハ! いいように囮にされたというわけだ。さすがだ」


「どこにいるともわからない渦。なら、罠を仕掛けた場所に誘い込むほうが効率的です」


 ほら、意思を宿した渦がやってきたわ。


 錫杖タイプのグリムワールを収納の指輪から出した。


 ────―――――――


 気軽に始めた物語がもう500話か。文字数も七十万を超えてしまった。ここまで読んでくださりありがとうございます。

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