第493話 逆も然り 下

「……ときどきお前が何百年も生きた魔女に見えるよ……」


「何百年も生きた魔女を見たことがあるんですか?」


 見たことがある口調ですけど。


「あるよ。どいつもこいつも冷めた目をしたヤツばかりだ。見ていてうすら寒くなる」


 何人もいるんだ、何百年も生きた魔女って。この世界、どうなってんのよ?


「人の心は百年も保てませんからね。よほどの強い思いがなければ壊れてしまうのでしょうよ」


 体と心は一心同体。体ばかり若く保とうとも精神を鍛えなければ意味はない。逆も同じで精神を鍛えても肉体が衰えては意味がないわ。


「人は愚かですからね。永遠の命を望むばかりに大切なものを落としているのに気がつかない。限りある命の大切さを知らない。死に幸も不幸もあるわけではないのにね」


 人は死ぬ。その枠から出たのならそれは人ではない。人でないのなら人ではない価値観を持つか、心をなくすしかないわ。


「タルル様やコノメノウ様は人の心に寄りすぎなのです。だから苦悩する。決して交わることのない心を理解したいと思っているから」


 貴女方は人に関わるべきじゃない、とは口にしなかった。この方の否定は王国の否定でもある。この方々がいたから今がある。それだけは口にしてはいけないわ。


「……お前は辛辣だな……」


「誰かが辛辣なことを言わなければ貴女方が人の心に汚れてしまいます。帝国にいる妖獣がそれです」


「……あれは、特殊だと思うがな……」


「人と一緒にいる時点で貴女方は特殊なんですよ」


 わたしはこの世界にいくつの国があるかわからないけど、守護聖獣に支えられている国はコルディーとゴズメ王国、あとはウワサに聞くていど。大国と呼ばれるところにはいないはずだわ。


「まあ、この世界自体が特殊なように思えますし、特殊な存在がいてもいいと思いますよ」


「お前も特殊な存在だと認識しているのか?」


「わたしはわたしです。特殊だろうとなんだろうと関係ありません。死ぬ瞬間までわたしを貫くまでです」


 前世の記憶を持ち、女として生まれてしまった。ありのままを受け入れ、わたしはおっぱいいっぱいを求めるだけよ。あ、そんな感じのスローライフを求めさせていただきますわ。オホホのホ。


「──伝令! 渦発生を確認! ミロホム男爵領です!」


 あ、うん。わたしの人生波乱万丈ですわ。


「ハァー。出発準備を。ライルス様に先行してもらって。巫女たちには聖衣に着替えてもらいなさい」


 まったく、渦浄化旅行になっているわね……。


「さっさと片付けるわよ!」


 わたしの目的は温泉。渦などさっさと浄化してやるわ。

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