第492話 逆も然り 上
立食パーティーは穏やかに流れ、何事もなく終わった。
夜中に忍び込むやからも現れず、爽やかな朝を迎えられた。
拍子抜け、ってことはない。あれだけ牽制して襲ってくるならそれまでの敵ってことだ。
……わたしとしてはそれまでの敵であって欲しかったけどね……。
お城には一泊の予定として伝えてあるので、朝食をいただいたら出発することにする。
準備をする兵士や聖騎士たちには苦労をかけるけど、わたしとしてはさっさと立ち去りたいわ。最近、おっぱい成分が不足して嫌になる。早く温泉で補給したいわ。
わたしたちの準備だけじゃなく、公爵様たちの準備もあるので、出発は十時くらいになってしまった。
「お世話になりました。ムゼング式立食を得られたことが最大の収穫でした」
他にはないんかい! とか突っ込まれることもなし。公爵様としてはそれが嬉しいようだ。なんでも立食はあまり受け入れられなかったのが悔しかったそうだ。
そこまでか? と思わなくはないけど、自領の文化を否定されるのはおもしろくないでしょう。それが認められ、広まるなら嬉しくて仕方がないのでしょうよ。
「他国にも知られるとは誇らしい限りだ。機会があればまたきてくれ」
「はい。とても素晴らしい土地でした。次は海からきたいものです。海から見るムゼングはとても美しいものでしょうね」
「うむ。次に会えることを楽しみにしている」
終始ご満悦の公爵様に見送られてお城を発った。
ムゼング領を出るまで進み、出たところでお昼にすることにした。
「ハァー。疲れたわ……」
お城の豪華なベッドで眠ったのに全然疲れが抜けなかったわ。
「ラグラナ。今日は早めに休むとしましょう。ライルス様と調整してちょうだい」
「畏まりました」
椅子に深く身を沈めた。
「随分と疲れているな」
「見てのとおりです」
人のおでこに乗らないでください。
「なにもなかっただろう」
「なにも起こらないよう動いたからです。こちらが隙を見せたら動いていたでしょうね」
守護聖獣は戦略的存在。地域紛争にはなんの役にも立たない存在。小事に目がいかないのよね。
「そうなのか?」
「人の悪意や妬みは見えないところで燃えるもの。それを鎮火させるには虚栄心や名誉を刺激してやることです。満足していれば人は悪いことは考えませんし、つけ込むことも難しいものです」
ムゼングでの決定権は公爵様にある。なら、攻めるべきは公爵様。余裕があればその周りを。それで、裏で暗躍する者を抑え込めるわ。
「人とは面倒な生き物だな」
「ええ。面倒な生き物なんですよ、人という生き物は。だから人の心を蔑ろにはできないのです。大事にするべきなんです。人の敵は人なのですからね」
その逆もまた然り。人の味方は人とも言えるのよ。
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