第486話 海 上
午後からは夫人の案内で港に向かった。
お城に招かれなければ港の宿に泊まれていたのに残念だわ。こうして見張られてのお出かけでもなかったのにね。
港にいた人たちは何事かと驚いているわ。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。
まあ、貴族がデカい顔ができる時代。迷惑に思っていてもそれを口にできる者はなし。お退きなさい、愚民ども!
…………………。
…………。
……。
なんてやれるわけもなし。ちょっと悪役令嬢っぽく言ってみただけよ。脳内劇場でね。
種族が違えど民の暮らしに違いはない。まあ、民の暮らしをそれほど知っているわけではないんだけどね。
大勢に囲まれているから市場にもいけない。お魚食べられると思ったのにな~。
「潮の香り、か」
これも世界は違えど同じなのね。
「なんでしょうか、この臭いは?」
お城暮らしで街にも出たことがないルーセル様には不快な臭いでしょう。ここに住んでいる夫人もあまりいい顔はしてないしね。
「魚の臭いですよ」
「チェレミー様は不快ではありませんの?」
「いい匂い、とまでは言えませんけど、そこまで不快にはおもいませんね。これがここでの臭いですからね」
臭いも記憶に残るものなのね。海にいったときのことが鮮明に思い出されるわ。水着に包まれたおっぱいのこと。天国だったわ……。
おっと。犯罪者とか言わないように。わたしは見ているだけで手を出したことはないんだから。
「ラグラナ。兵士に魚を買ってくるように伝えておいて」
「畏まりました」
わたしは気軽に歩けないけど、兵士は別。自由に歩いてたくさん魚を買ってきてもらいましょう。
「魚ならこちらで用意するわよ」
これからいくのはムゼング家御用達の商会で、何十隻もの漁船を所持していて、お城にも卸しているそうよ。
「民が食べる魚や貝は大手の商会には上がらないものです。わたしはそういうものが食べてみたいのです」
地元料理が一番知りたいのよ。
「チェレミー様は人が見ないところをよく見るのですね」
「そこに真実があったりしますからね。見えないところを見るのもたまには大切なんですよ」
第二王女に見ろとは言わないわ。言ったところでなにを見ていいかわからないでしょうからね。
「チェレミー嬢」
夫人に呼ばれて視線を向けると、風格のある男性と配下と思われる方々がいた。
「マルケラック商会の主、ロンドベルと申します」
どこかの部隊名みたいな名前だこと。てか、ロンドベルってどんな意味だったかしら? なんかの鐘としか覚えてないわ。いやまあ、どうでもいっか。
「チェレミー・カルディムです。わたしの我が儘を聞いてくださりありがとうございます」
「とんでもございません。コルディアム・ライダルス王国の方からのお願いであれば喜んで叶えさせていただきます」
あら。コルディーと関係を持ちたかったのかしら?
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