第484話 牽制 上

 夫人とレアルーナ様、ルーセル様とのお茶は続き、昼となった。


 貴族社会では二食になったり三食になったりと、一日三食とかは決まっていない。元の世界のように毎晩晩餐会やら夜会やらがあるわけじゃない。ましてや領地でやることなんて滅多にない。


 それはゴズメ王国でも同じなようで、領地での暮らしはそんな豪華なものではない。まあ、今回は第二王女や国賓待遇のわたしがいるので昼食はちょっと豪華だった。


「ムゼングの食材が使われているのですか?」


 食事中はおしゃべり厳禁ってことはない。お城でもおしゃべりはしていたわ。


「はい。ムゼング領内の食材でございます」


 答えたのはわたしについている侍女だ。うちのメイドは部屋の端にいて控えているわ。


「なかなか豊かな地のようですね。王都では見たことがない野菜や魚が使われているのですね」


「チェレミー嬢は変なところに目がいくのだな」


「その土地を知るなら食材を見ることが早いものです。たとえばこの野菜。いろいろな料理に使われております。ムゼング領でよく作られているのでしょう。たとえばこの魚。白身からして近海で漁をしていることがわかります。赤身の魚がないところからして外洋に出てないか食べてないかのどちらか。この食卓だけでムゼング領が豊かだとわかるものです」


 この地は本当に恵まれている。貿易しているのなら落ちるお金もとんでもない額でしょう。公爵や夫人が着ている服からでもわかるくらいだわ。


 これは別にわたしのことを自慢しているわけではないわよ。公爵への牽制だ。舐めたらその舌を引っこ抜いてやるぞ、ってね♥


「なるほど。そういう見方があるのだな」


「見る者が見ればわかること。なんの自慢にもなりませんわ」


 こんなこと少し学べば誰でもわかることだ。次はわかることから見えないものを見ること。わたしの見えないところに誰がいるか。控える者がなにを見ているか。なにに反応したかだ。


 まあ、それはラグラナの仕事だ。わたしではわからないことを見るメイドだからね。


「ところで、その顔の布は邪魔にならんのか? わたしたちなら傷のことは気にせんぞ」


 気にしないのならスルーしろよ。わざわざ言うところがデリカシーがないわよね、この方は。夫人も少し表情を固くしているわよ。


 ……これは、参謀的存在がいるわね……。


 それはわたしの視界に入らない者であり、どこかからか覗いている者ね。


 まあ、タルル様もこの席にいるからわたしの背後にいるわね。わたしたちが席についてから入ってきた者もいるからね。


「この火傷はわたしの罪。高貴な方々に見せるなど失礼でしかありません。邪魔にならないベールですのでお気になさらず」


 グラスをつかみ、飲んで見せた。

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