第483話 聖女信仰派 下

「失礼します」


 と、ラグラナが公爵家の侍女を連れてやってきた。


「お嬢様。マリカレ様がお茶のお誘いにきました。如何なさいますか?」


 断れるわけないので承諾し、服を着替えることにする。ほんと、上位者と会うのは面倒で仕方がないわ。


「コノメノウ様は如何なさいますか?」


「わたしは遠慮する。酒が出るなら別だがな」


 お茶の席に酒はでねーよ。


 ハァーと心の中でため息を吐き、侍女の案内で公爵夫人のところに向かった。


 わたしが男なら公爵からの誘いだったのでしょうけど、女では夫人に託すしかないのでしょう。つまり、王都でのわたしの立場を知らないってことだ。


 案内されたところはかなり広いテラスで、向こうには海が見えた。なかなかいい立地に建てられてるじゃないの。


「お招きありがとうございます」


 席にはルーセル様と見知らぬ女性がいた。見た目年齢からしてかなり上の方だと思われる。


「こちらこそ旅の疲れがあるのにお誘いして迷惑ではなかったかしら?」


「快適な場所を用意しての旅ですから疲れはありません。ただ、渦の報告書を作らなくてはならないので少し辟易していました」


 席を勧められて座った。


「貴女が?」


「はい。聖騎士団の記録係がいないので頼まれました」


「チェレミー様は文官としても有能な方なんですよ。わたしにも理解できるよう書いていますから」


「ゴズメ王国の書式がわからないので、物語風に書きました」


 この世界、不思議なことに言葉も同じなら文字も同じなのよね。どんなご都合主義が働いてんだか。


「チェレミー嬢は多才ですのね」


 と、言ったのは見知らぬ女性だ。


「こちらはルグセング王国に嫁いだわたしの姉なの」


「レアルーナ・バルセイグよ。今は里帰り中なの」


 里帰り? それって離婚したってこと?


 他国に嫁いだ人が里帰りなんてするのかと疑問が態度に出たのでしょう。レアルーナ様がクスクスと笑った。


「別に離縁されたわけじゃないわよ。ルグセング王国とゴズメ王国は海を面しての友好国。船も頻繁に往き来しているの。里帰りはよくしているのよ」


 そんなことがあるんだ。所変われば、ってヤツね。


「一際大きい船があるでしょう。バルゼイグは家所有の船よ。あれで里帰りしているの」


 ここからでもわかるほどの大きな船だ。この世界、わたしが思う以上に大航海時代なのかしら? マストが四本も立っているわ。


「素晴らしい船ですね。外洋船ですか?」


 わたしはあまり船に詳しくないけど、マストの数で船の種類が変わるとかなんとか。わたし、海賊王に興味なかったから知識もないのよね。クイーンエメラルダスは観てたけど。おっと。年代がバレる。


「……チェレミー嬢は本当に博識なのね……」


「聞き噛ったていどです。わたしは内陸部出身なので」


 でも、あんな立派な船があるなら乗ってみたいわね。甲板で水着美女を拝みたいものだわ。

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