第481話 癖 下

 公爵は少したじろいたものの、人前であることを思い出して表情を引き締めた。


 ふふ。威圧されたことがないのでしょうね。ただ偉ぶっているだけでは上下関係は築かれないもの。立場で威圧してきた者は能力で威圧してきた者には勝てないのよ。


 ……まあ、わたしに能力があるかは別問題だけどね……。


「こちらは我が王国の守護聖獣様であらされるコノメノウ・ナナオビ様です」


 襟首をつかんで前に出した。


「控えなさい」


 ルーセル様の声に公爵ではなく息子のアルフェルト様だった。この方は公爵側ってわけじゃないみたいね。


「し、失礼しました!」


 公爵側が片膝をついて頭を垂れた。


「よい。わたしはこやつについてきたまで。いないもとして扱うがよい」


「ありがとうございます」


「公爵。名はなんと言ったか?」


 さすが一個の守護聖獣様。扱いをよく知っている。他国であろうと初対面のときは目下の者が名乗りを上げる。訊かれるようでは礼儀がなってないと言われても仕方がないわ。


「はっ。レイフェス・ルーク・ムゼングと申します」


「ルークか。久しぶりに名を聞いたな。聖女の血を引いた家系だったのか」


 ルークが聖女の血を引く意味を持っているの?


「はい。風の聖女の血を引いております」


 ルークが風って意味なのかしら?


「そうか」


 コノメノウ様の関心はそれで途切れたようで黙ってしまった。


「皆様のご来訪、歓迎致します。ごゆるりと我が城でお休みください」


 公爵が下がり、侍女と思われる女性陣と、公爵夫人と思われる女性が現れた。


「ルーセル様。お久しぶりです。大きくなりましたね」


 エルフだと成長がわかるものなのね。それとも成長がわかるくらい会ってないってことかしら?


「お久しぶりです。マリカレ様。お元気そうでなによりですわ」


 こちらの関係は良好のようね。この時代も女性が政治に口を出すことはない。よほどのカリスマ性や地位、実力を持っていなければね。


 この方は典型的な貴族のご婦人って感じね。振る舞いも穏やかそうだし、いいところのお嬢様だったのでしょうよ。

 

「チェレミー様。ようこそいらっしゃいました。レイフェスの妻、マリカレと申します」


 なかなか腰の低い方だこと。よき妻でよき母なんでしょうね。自分の役目を把握しているみたいだわ。


「チェレミー・カルディムです。お会いできて光栄ですわ。少しの間、お世話になります」


 招待されてきただけであり、公務でもないこと。二日ほどお邪魔させていただくとしましょう。


 マリカレ様の案内で公爵のお城へ案内された。

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