第480話 癖 上

 ……随分と儲かってそうね……。


 ムゼング公爵のお城を見て思ったのはそんな俗っぽいことだった。


 やはり貿易は強いわよね。公爵でありながら王都のお城にも負けない豪奢さと歴史を出しているわ。


 お城に入ると、お抱えの騎士たちが並んでおり、わたしたちを歓迎している。そんなに騎士がいるなら渦を探索しろよと言いたいわ。


「ラグラナ。ラン。メイドには必ず二人で行動するよう徹底させておきなさい。ないとは思うけど、言い寄られてもついていかないこと。乱暴をされたら殺しなさい。あとはわたしが片付けるから」


「物騒ですね」


「敵地に入ると思いなさい。油断してはダメよ」


 わたしは直感とか嫌な予感とかするタイプではない。この目で見た状況や情報から判断している。


「気に入らないわ」


「お嬢様の気に入らない、久しぶりに聞きました」


 そう? わたし、前にもそんなこと言ってた?


「最初は我が儘を言っているだけかと思いましたが、そう言った数日後には悪いことが起きていました」


 もしかして、わたしの癖? 全然気づいていなかったわ。


「悪いことが起きないことを願うわ」


 馬車が停まり、扉が開いて外に出る。


 ライルス様がルーセル様をエスコートしているので、大半の目はそちらに向いている。その中でこちらに目を向ける者もいる。


 騎士がこちらを見ているなら行き届いていると感心するけど、そうではない文官がやっているとなると怪しいとしか思わないわよね。


 まだ誰や? みたいな表情をすれば流してあげたのに。完全にわたしをロックオンしているじゃないのよ。 


「チェレミー様」


 わたしの護衛をしてくれている聖騎士に促されてルーセル様の下へ向かった。


 公爵と思われる男性(エルフは見た目が若いから何歳か見抜けないのが難点よね)との挨拶は終わっており、ルーセル様がわたしを紹介してくれた。


「あなたがチェレミー嬢か」


「お初にお目にかかります。チェレミー・カルディムと申します」


 てか、ゴズメ王国での挨拶の礼儀、どんなだったかしら? なんかもういろいろあって忘れちゃったわ。国王陛下にも失礼にならないくらいで接していたしね。


「ウワサは聞いている。渦のことで大変世話になったそうだな。ムゼングの民に代わり礼を言う」


「もったいないお言葉です。ゴズメ王国とコルディアム・ライダルス王国の友好が保たれることを願います」


「チェレミー嬢は、顔に傷を負っているそうだな」


 それを人前で訊いちゃうか。スルーするところでしょうに。それでは国王陛下が気に入らないって言っているようなものですよ。


 ベールを外して火傷を見せた。


「このとおり、顔の半分が火傷で覆われております。高貴な方に見せるものではないのでご容赦を」


 にっこり笑ってみせてからベールをつけて一礼した。

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