第479話 従兄弟 下
「ルーセル様は、ムゼング公爵領にきたことはあるんですか?」
朝食の席で尋ねてみた。
「いえ、わたしは王都から出たことはありません。ムゼング公爵様とはお城ではよくお会いますね」
「領地は代理を立てているので?」
コルディーでは王都で暮らす領主が多いから大抵は代理を立てているのよね。
「いえ、代理は立ててはいないはずです。そう遠い領地ではないので」
ゴズメ王国は端から端まで約五百キロ。エルフ種の中では大きい国だけど、コルディーと比べたら十分の一くらいではないかしら? この国土なら代理を立てる必要もないのかもしれないわね。
「公爵様はどんな方ですの?」
「静かで落ち着いた方ですね。悪いウワサも聞きません」
「役職にはついているので?」
「ついてはおりません。ムゼング家は昔から他国と貿易するところなので役職につくことはありません」
「海に面している領地の強みであり、難しいところですね」
「どういうことでしょう?」
「簡単な話です。他より儲けていて他領から羨まれている。下手に役職について邪魔はされたくない、ということです」
種族が違うだけでエルフも人間も俗物ってこと。妬みも嫉みもあるってことだ。
「アルフェルト様とはどうです?」
「アルフェルト様は領地にいる方なので、年に一回も会えばいいほうでしょう」
年に一回会えばいいほうなのに、顔と名前は覚えているんだ。まあ、顔を覚える才能がないと王族や貴族なんてやってられないか。写真がない世界では。
他にも訊いたけど、それ以上の情報は得られなかった。やはり他国だと情報を集めるのは難しいものね……。
「お城にはルーセル様を立てて入ります。わたしは、ルーセル様の補佐として横にたちますね」
「わたしよりチェレミー様が立つほうがよいのでは? わたしは王女ではありますが、表に立つことはありませんでしたから」
「それでもルーセル様が上位であり、王女であります。わたしは他国の伯爵令嬢でしかありません」
まあ、最終的にはわたしが前面に立たされるでしょうけど、建前は大事にしなければならない。それが貴族社会というものなのよ。
朝食が終わればルーセル様も正装に着替えてもらい、ライルス様と打ち合わせする。
ルーセル様を代表として向かうことにして、公爵との挨拶もルーセル様に任せることにした。聖騎士たちもルーセル様を立てるよう行動してもらう。
「巫女たちはわたしと同列に扱ってください。わたしと別行動する際は、必ず二人の護衛をつけてください」
「なにか心配することでもあったか?」
「念のためです。巫女はゴズメ王国で重要な存在。他国と貿易している地なら他国の間者が忍び込んでいるかもしれません。誘拐されるなどゴズメ王国の恥、どころか失態です。そのことを胸に巫女たちを守ってください」
「チェレミー嬢がそういうなら徹底させよう」
「お願いします」
なにもないことを切に願うわ。
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