第469話 魔獣 下

「村の方々! もう安心です! 失った方々がいないか調べてください!」


 さすがにルーセル様に仕切らせることはできない。その能力もないからね。


 兵士が集めた重傷者に治癒の輪を腕につけさせ、軽傷者は傷を洗い、医薬局からいただいた傷薬を塗って包帯を巻いた。


「チェレミー様は医療の知識もあるのですか?」


 感心そうなルーセル様。血を恐れないとは度胸はあるようね。


「これは応急処置です。医療と呼べるものではありません。回復魔法が使えたらとは思います」


 やってやれないことはないけど、付与魔法でも代用はできる。わたしにはこの力を極めたほうが性に合っているわ。


 村としてはタイミングがよかったようで、死者はおらず、重傷者も三人だけ。治癒の輪で回復に向かっているわ。


 軽傷者も治癒の輪をつけさせましょう。狂犬病みたいなのにかかったら大変だからね。


「ラグラナ。炊き出しをお願い。食料は惜しみなく使いなさい」


 村とは言え、二、三百人は住んでそうな規模だ。これで持ってきた食料を使い切ってしまいそうだわ。


「ライルス様。マルジング伯爵に報告をお願い致します。領内でかなり大きい渦が発生しているようです。探索の許可をいただいてきてきださい」


「協力は要請しないのか?」


「そうですね。一応、探索の要請はしておいてください。発見はこちらでやって勝手に浄化します」


 タルル様がいれば簡単に見つけられるでしょうよ。伯爵になにか言われる前に片付けてしまうわ。


「わかった。五人、向かわせよう」


 さすがサイルス様。威圧するためだと理解したようだ。


「あと、報告は伯爵様からしてもらってください。聖騎士団の方でもよろしいでしょうけど、活躍の場を割かれた者は不満でしょう?」


「活躍の場があると?」


「この流れからしてあるでしょう。わたしとしてはないことを切に望んでいるのですがね……」


 神のシナリオか、我が身が不運なだけか、起きて欲しくないことばかり起こってくれるわ。


「そうか。あるか。なら、報告は伯爵にお願いするとしよう」


 楽しそうに笑うサイルス様。羨ましいわ……。


「警戒はお願いしますね。村のことはこちらでやりますので。ラグラナ、村長を呼んできて」


 まずは村長を味方にして村を掌握。さっさと立ち去れるようにがんばりますかね。


「ルーセル様。第二王女としての地位と名を借りますね」


 守護聖獣様は出さないようにしましょう。拝まれても面倒になるだけだしね。


「はい。ご自由にお使いください」


「ありがとうございます。名を汚すようなことは致しませんので」


 わたしは裏方。ゴズメ王国のために。そして、わたしのために使わせていただきますわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る