第468話 魔獣 上

 想定外が読めたらそれは想定内だ。


 わたしは完璧な人間ではなく、用心深いだけ。人生、そう上手くいくわけがないと学んでいるだけだ。


 故に、想定外が起こっても慌てることはない。ほらね、って感じで受け入れられているわ……。


「……渦か……」


 自分の中では終わったような感覚でいたけど、まだ発現条件はわかってなかったのよね。


 渦は生物を凶悪化させ、体を変化させる。魔物を魔獣化させるのだ。


 魔物は魔力を持つ生き物であり、魔石なんかを身に宿したりする。魔獣は渦によって歪められた生き物を差すそうよ。


 わたしたちは所定のルートを変えてマルジング伯爵領に入ったら狼が魔獣化したものが村を襲っているところに遭遇してしまった。


 なんてタイミングなんだと嘆息しながらも聖騎士団に退治をお願いした。


 わたしが付与した剣により、苦戦することはない。と言うか、なぶり殺し? みたいな感じになってしまった。


「魔獣には触れないでください。巫女たち。浄化を」


 渦に歪められたのなら渦の力が宿っているってこと。下手に触って聖騎士たちまで歪められたら堪ったものではないわ。


「ルーセル様。聖騎士様たちを労ってください」


 これは王族としての勤め。わたしでは意味がないわ。


「今日はここで野宿します。兵士たちは怪我人を集めてちょうだい。タルル様。他に魔獣の気配はしますか?」


 コノメノウ様は魔獣の気配はわからないらしく、タルル様にはわかるそうだ。


「あちらこちらから感じるな。かなり大きい渦があるのではないか?」


 だったらもっと早く察知しろよ! と言うのをグッと堪える。妖精もお腹がいっぱいになれば眠くなる。爆睡していたので察知できなかったのよ。


「あと、わたしを握るな。振るな」


 おっと、失礼。感情を制御できませんでした。


 このままだと他国の守護聖獣様を馬車の角で叩きそうになるので離してあげた。


「……お前、わたしの扱い雑すぎないか……?」


「丈夫なので加減を間違えているだけです」


 小さくて弱そうに見えるけど、タルル様は壁にぶつかっても痛いとも感じてない。きっと心も同じくらい頑丈なんだわ。


「……お、お嬢様……」


「ナディアたちは馬車から離れないように。ジェン、メイドたちを守ってちょうだい。マニエリ、ラン、ついてきて」


 浄化に向かった巫女たちのところに向かった。


「浄化はできたかしら?」


「はい。浄化できました」


 やはり渦の力が宿っていたか。まったく、迷惑な存在だわ。


「念のため、村の周りも浄化してください。聖騎士様。巫女たちの護衛をお願いします」


 渦は増殖する。村にも侵入しているかもしれないわ。知らないところで増殖する前に浄化して回りましょう。

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