第467話 旅路 下
と思ったけど、旅は順調でした──と言うわけないじゃない。次の日には荒れてしまいましたよ。
どこから巡礼旅行の話が流れたのか、領地に入るなりそこの当主が待ち構えていて挨拶を求めてくる。無下にもできないから挨拶するしかないのよね……。
それでもお城への誘いはご遠慮させてもらい、先を進むことにした。
「五日も無駄にしたわね」
領地はそれほど広くない。半日もあれば通過できるくらいの広さしかないので、昼に入ったら夜にまた挨拶しなくちゃならなくなるのよね。
「こんなに挨拶をしてくるとは思いませんでした」
ルーセル様も驚いている。
「わたしもまさかこうなるとは見抜けませんでした」
どこかでエルフは俗な種族ではないと思っていたんでしょうね。わたしもまだまだだわ。
さすがに領主がいる町に入ると誘いを断るのは難しい。それも伯爵級の地位にいたら断れない。仕方がなくお城に招かれ、領主や親族と挨拶合戦。本当に面倒でしかないわ……。
他国でも伯爵って地位は困るのよね。わたしは自分より上位者の前ではベールを被ることにしている。それはルーセル様の前でも同じだ。火傷を見せないようにしている。
が、他国の伯爵となると微妙だ。伯爵の娘なのだから上位者として当たればいいのだけれど、わたしは国賓扱い。立場上、上になるかもしれない。国交がないから決まってないことも多々あるのよね。
どうしようか迷ったときは狐の面をつけることにしている。ゴズメ王国でもコルディーの守護聖獣は妖狐だとは知れ渡っている。その眷属や信徒だと思われて失礼とは言い難いでしょうからね。
狐の面で伯爵一家と挨拶を交わし、ルーセル様を全面に立ってもらい、なんとか一晩お世話になり、なんとか無事に出発できた。
出発して最初の休憩で聖騎士団の団長たるサイルス様を呼んだ。
「どうかしましたか?」
ルーセル様もいるので随分と畏まっていること。王族の前だからかしら?
「少し道を変えます。このままでは海に着くまで何十日とかかりますので。マルジグ伯爵領回りで向かいます」
「チェレミー嬢は、いつの間に道を覚えたのだ?」
すぐに道を思い浮かべるとか、さすがよね。
「神殿図書館で覚えました。古い地図だったので今も正しいかはわかりませんけどね。いけますか?」
「問題ない。昼まで待ってもらえるか?」
「お任せします」
土地勘はライルス様のほうが勝っている。わたしは素直に従うとしましょう。
「マルジグ伯爵領を通るとなると、補給ができなくなるが大丈夫か?」
「問題ありません。一月補給しなくても大丈夫なくらい持ってきていますから。もちろん、馬のエサもね」
「想定外も折り込み済みか」
「ただ備えていただけです。よろしくお願い致します」
「任されよ」
頼もしいお言葉。では、遠慮なくお昼までゆっくりさせていただきましょう。あ、コノメノウ様とタルル様は魔力籠めをお忘れなく。
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