第463話 休息の時 下

 釣りなんかしないからか、リペカはすぐにルアーに食いついた。


「なかなか元気じゃない」


 普通の釣竿では折れていたかもしれないわね。


 糸もわたしの付与魔法で強化しているので切れる心配はない。少し疲れさせたら一気に釣り上げた。


 ……四十センチと言ったところかしらね……。


 なかなかの大物だ。本当に主だったりする?


 わたしの収納の指輪は別に生き物も入れられるので、釣ったリペカを放り込んだ。


「今日の夕食に出してもらいましょうかね」


 広い湖なので十匹くらいは大丈夫でしょう。と思ったけど、入れ食いなので三匹で飽きてしまったわ。エサを与えてない釣り堀と同じじゃないの。駆け引きもあったものじゃないわ。


「舟を戻してちょうだい」


 リペカを渡したらまた湖に出て、少し吹いてきた風を浴びながら本を読むことにした。


 なんかお嬢様っぽいことしてるぅ~とかアホなことを実感していると、コノメノウ様が湖面を歩いてこちらにやってきた。


 ……情緒もなにもあったものじゃないわね……。


「どうしました?」


 寂しくなりましたか?


「人が多くて落ち着かん」


「立場が立場ですからね。人の目を排除することはできませんよ」


 わたしもずっとベールを被ったままだ。高貴な方がいるとなかなか外せないのよね。


「酒はあるか?」


「飲む分くらい持ってきてくださいよ」


 と言いながら出してあげるわたしは甘ちゃんね。


「清酒ではないか。もうなくなったのではないか?」


「ミコノトに帝国にいかせてお米を買わせました」


「戻したりしてよいのか?」


 ミコノトの能力は把握済み、って感じね。


「構いませんよ。なんの問題もありませんから」


「それも折り込み済みか」


「そういうことです」


 さすがにわたしという人間がわかってきたみたいね。言葉少ないながらもわたしの行動を想像できたようだわ。それはそれで厄介だわ。コノメノウ様を騙せないじゃなぁ~い。


「悪いことを考えている顔だぞ」


「ベールを被っていますよ」


「そんなものでそなたの笑いが隠せると思うな。もう体から滲み出ているんだよ」


 ヤダ。顔だけじゃなく態度や気配にも気を配らなくちゃならないようだわ。


「その魚は食えるのか?」


「塩焼きにすれば食べられると思いますよ。小さいのを釣らないといけませんけど」


「なら頼む」


 そうあっさりと言わないで欲しい。まあ、入れ食いだから手頃なのを選別すればいっか。


「火鉢はありますか?」


「それは持っている」


 どこかからか火鉢を出した。ちゃんと火がついた炭が入っていた。


「少し待ってください」


「ああ。ゆっくりで構わんよ」


 それなら自分で釣ってくださいよと思ったけど、まだ陽は高い。わたしも塩焼きを食べたいし、ゆっくりやるとしましょうか。わたしが求めていたのはこんなゆっくりと流れる時間なんですからね。

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