第462話 休息の時 上

 今すぐにも温泉にいきたいところだけど、楽しむためにも体調を万全にしなくてはならない。急がば回れよ。


 朝はいつものように起きてウォーキングをし、よく食べてよく休む。久しぶりに小説を書いたり、本を読んだり……はできなかった。


 王妃様やルーセル様がずっと行動をともにしているからゆったりすることもできないわ。


 まあ、なにか難問をふっかけられることもなく、おしゃべりするだけ。これが貴族の付き合いってヤツなのかしらね?


 王都で暮らしていたときはお母様がこんなことをやっていたわね。わたしは、通常のお嬢様教育を受けながら暗躍していたから貴族の付き合いってよく知らないのよね。


「そうそう。王都から舟を運んできたわ」


 舟? あ、湖で乗る舟のこと? わざわざ持ってくるとか王族は違うわね。あ、いや、わざわざ馬車を持ってくるわたしには言われたくないだろうけど。


「ありがとうございます。是非、乗ってみたいですわ」


 ボートなんて前世で小学生のとき乗った以来。上手く漕げるかしら?


 と思ったら、渡し船的なもので、兵士が長い棒を持って進める感じのものだった。そこはゴンドラ的なものであって欲しかったわ……。


 王族が乗るから外装や内装はしっかりしているけど、舟に乗っている気分にはなれないわね。


「魚です。チェレミー様」


 お城からあまり出ることがなかったのでしょう。ルーセル様のはしゃぎっぷりは子供のようだ。


「なんて魚でしょうね」


 鱒のような形をしているけど、そこまで鱒に造詣が深いわけじゃない。なんとなくそうかなってくらいのものです。


「地元の者にはリペカと呼ばれている魚よ。昔、食べたことがあるわ」


「それは食べてみたいですね。」


 鱒はバター醤油が美味しかったはず。あ、あれは鮭だったかしら? この世界に生まれて魚料理、そんなに食べてないのよね。


「では、捕らせましょうか」


 船頭(?)に目配せすると、口笛を吹いて岸にいる者に合図をした。それで伝わるの? 精霊術?


 風もなく波もない、舟に乗っている感じもしない。これのなにが楽しいんだ? と思わくもないけど、のんびり流れる時間は心地よい。ただ、いつまでも乗っていられないのが生物の性。王妃様とルーセル様には降りてもらい、わたしら湖の中頃までいってもらった。


「主とかいないかしらね?」


 あまり釣りはしたことないけど、いずれやりたいと思って釣竿は用意していた。


 リペカがなにを食べるかわからないけど、蜻蛉のような虫は食べていたのを見た。それならルアーでいいでしょう。


 錬金の壺で蜻蛉のルアーを作り出し、糸の先に取りつけた。


 ルアーには浮遊の付与を施して飛んでいるように見せて水面を走らせた。

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