第460話 誰が始めた物語? 上

 一時帰宅はあっと言う間に過ぎてしまい、ゴズメ王国に戻る日になった。


 ……ゆっくりしたかった……。


 忙しくてちょっと寝不足。なにも考えず三日くらいベッドの上で過ごしたいものだわ。


「叔父様。ロセランタ男爵様をよろしくお願いします」


 他国の大使を領主代理に任せるのも間違っているけど、異種族との交流はナジェスのためにもなり、カルディム家のためにもなるのでがんばってくださいな。


「あと、飲みすぎないでください」


 サツリエ焼酎はカルディム家専売として売ることにした。その都合で飲む機会は増えるでしょう。それを理由に飲みすぎないでくださいね。


「わかっている。お前はあまりやりすぎるなよ。たくさん味方を作る分だけ敵を作りそうだからな」


「大丈夫ですよ。対策は万全ですから」


 雑魚は臨機応変に対応すればいいし、難解な敵は牽制している。最重要な敵は対策を講じている。わたしは小心者なので。


 小心者って意味知ってる? とかの突っ込みは聞きませんのであしからず。


「……お前を知っているだけに笑えないよ……」


 そこで笑えたら叔父様の評価がさらに爆上がりしますよ。


「ロセランタ男爵様も叔父様をよろしくお願いしますね。ゴズメ王国のことを教えてください」


「はい。友好のために働かせていただきます」


 堅いわね。まあ、それがロセランタ男爵のいいところなんだけど。


「タルル様。お願いします」


 疲れ切ったタルル様。どうなさいました?


「……お前は本当に容赦がないな……」


「嫌なら断ってくださって構いませんよ。わたし、無理矢理とか強制とか嫌いですから」


 やってもらうなら心地よく、がわたしのモットーですから。


「断れないようにしててよく言う」


「これは誰が始めた物語でしょうね?」


「…………」


 わたしは誰かが始めた物語に乗っただけ。あ、乗っ取ったとか言わないの。わたしは便乗しただけなんだから。


「なにもしたくないならなにもしないことです。なにかするならなにかされることも覚悟してください。利用したら利用されるものです。なら、お互い得になるよう利用し利用される関係を築くべきです」


 わたしは別に利用されることを怒ったりはしない。どうぞご利用してくださいと堂々と言ってあげるわ。わたしだって他者を利用することもあるんだからね。でも、味方を駒にしたことはない。捨て駒にしたことはない。ちゃんと得を与え、ちゃんと人として利用しているわ。


「……お前の正論はいつも心を抉ってくるよ……」


「それはタルル様が良心を持っているからです。でなければタルル様と仲良くなりたいとは思いませんよ」


 敵なら容赦なく利用してやるんだけどね。

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