第457話 視察 下

 職人町もすっかり生活感が出てきているわね。


 毎日掃除をしているようで、ゴミ一つ落ちていない。ちゃんと綺麗にしてくれているようね。


 工房も増えて煙が何本も上がっている。空気清浄の付与魔法を施さないといけないわね。


「お嬢様、帰っていたんですね」


 初めの頃からいる工房の女将さんが声をかけてきた。


「ええ。また出かけなくちゃならないからその間に敷地内を見て回ろうと思ってね。なにか問題は出ているかしら?」


「お嬢様のお陰で平和に暮らせてますよ。ありがとうございます」


「それならよかったわ。なにかあればすぐ館に伝えてちょうだいね」


 女将さんと話していたら他の女将さんも集まってきて、井戸端会議(井戸ではないけど)が始まってしまった。


 頬が引き釣るのを必死に我慢しながら女将さんたちのおしゃべりを聞いていた。


 平和なのは話の節々からわかるけど、平和なのによくしゃべるネタがあるものよね。家のことをよくそこまで膨らませることができるもんだわ。わたしには理解できないです……。


「お嬢様。そろそろ」


 わたしが困っているのを察してか、ラティアが助け船を出してくれた。


「あ、そうね。皆さん、また留守にしますのでよろしくお願いしますね」


 笑顔で挨拶して商人町に向かった。


「ありがとう。わたしにはまだ女将さんたちを相手できる技量がないわ」


「それはわたしにもありません。あの年代は最強ですから」


 世界は違えどおばちゃんって生き物は最強なのね。わたしがあの年代になっても勝てる気がしないわ。


 もう帰りたくなったけど、商人町を見ないで帰るわけにもいかない。踏ん張るとしましょうか。


 人が増えれば商売も増える。アマデア商会とマーリング商会くらいだったのに、いくつかの店が増えていた。


 報告で受けてはいたけど、さすがに意識を向けられるほど余裕はなかった。商売は商人に任せるのが一番と、半年以上きてなかったのよね。


 人の往来も増えており、職人ではない者もちらほらと見えるわ。


「商売繁盛のようね」


「領都や近隣の領地から買いつけにきている者もいるそうですよ」


 まあ、税金を取ってないからね。物は自然と集まるでしょうよ。


「これならさらに発展しそうね。ルース商会の者を連れてこようかしら?」


 転移をタルル様に頼ることになるけど、ゴズメ王国のためになると説得すれば引き受けてくれるでしょうよ。守護聖獣様はお国のためって言葉に弱いからね。


「ラティア。悪いけど、わたしがいない間に商会を回っておいて。わたしに伝えたいことがあるなら手紙を出してってね」


 商会を一軒一軒回ろうと思ったけど、この混みようでは回るのは迷惑でしょう。ラティアに様子見をお願いしましょう。わたしがいないときは敷地内を見て回るようお願いしていたからね。


「帰りましょうか」


 明日にはラグラナたちも戻ってくるから今日はゆっくり休むとしましょうかね。

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