第455話 幻想 下
「……お前らしくないことをはっきりと口にするのだな……」
「必要ならわたしはどんなことも口にしますわ。ロセランタ男爵は信用信頼を口にする者をどう思いますか?」
「まず実行して示せと思います」
そう言える方だと思ったからロセランタ男爵を選んだのよね。
「わたしたちは貴族です。仲良しこよしなんて関係は結べません。対等に付き合いたいのならお互い利益になれる関係になるべきです」
貴族の間にも友情はある。けど、友情は利益や利害の次くらいにあるものだ。家の事情が優先されるのよ。
「ゴズメ王国と国交を結ぶことは我が国のためになります。ロセランタ男爵様は地位を向上させることができる。我がカルディム家はゴズメ王国の品を優先して回してもらえる。この関係は悪と言えますか?」
だからと言って正義とも言えないけど、少なくも歪んではいないし、国民や領民に害は与えてはいない。それどころか利を与えるでしょう。
「この関係を壊すにはわたしが示した以上の利益を示さなければなりません。さて。どんな利益があるのでしょうね?」
まあ、出せないこともないけど、それを用意する手間はどれほどのものか。一年や二年で用意できるものではないわ。
「……お前は本当に悪辣だよな……」
呆れる叔父様ににっこり微笑みを返した。
「正しく理解されて光栄ですわ」
さすが叔父様。理解者が近くにいてくれて嬉しいです。
「ロセランタ男爵様はわたしをご理解していただけましたか?」
わたしの考えを理解できる人は少ないでしょう。大多数の人は理解してくれないわ。でも、わたしは理解できない大多数の考えを理解できる。
どんな気持ちか、どんなことを望んでいるか、どうすればいいか、どこを突けばいいか、大多数を誘導することなんて簡単だわ。それができる権力と力があるんだからね。
「……正直、理解できないところは多々あります。ですが、利に敏く、問題解決能力に優れていることは理解できました。貴女とは敵対したくありません。敵対した場合も考えているでしょうからね」
薄く笑うだけに止めておいた。まったくそのとおりだからね。
「建前は大事です。綺麗事も大切です。人は汚いものを嫌悪しますからね。汚いところはわたしたちが知っていればいいことです。ただ、腐敗しないようには気をつけてください。腐臭は必ず漏れますからね」
大多数の人はその腐臭に敏感だ。誰よりも嫌悪する。それが憎しみ妬みになることも知っている。現実に気がついてしまうのよ。
「貴族たる者、民に幻想を見破られることこそ恥と思うべきです。悪と思うべきです」
それが君主制ってものだわ。
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