第454話 幻想 上
叔父様とロセランタ男爵を会わせた。
どちらも他種族と会うのはこれが初めてのはず。わたしが間に入って場を繋いであげた。
種族は違え、どちらも優秀な人たち。種族として見るのではなく個として相手していた。
「サツリエの焼酎か。なかなか美味いな」
お湯割りで飲んでいる叔父様。初めての味でも問題なさそうね。まあ、ウイスキーやらブランデーやら渡しているから舌にお酒がなじんだんでしょうよ。
「我が領でもサツリエは作っていますが、まさか酒になるとは思いませんでした」
でしょうね。お酒と言ったらワインかエールの時代だし。
「チェレミー。これはカルディム領でも作れるものなのか?」
「作れますよ。ですけど、家庭で作るくらいで止めておくといいと思います」
「なぜだ?」
「作る畑もなければ作る農民もいないからです。仮に作れと命じても反発を生むだけ。これは自然に広がらないと農民に馴染むことはありませんよ」
麦の生産が王国を支えており、税にもなっている。ほとんどの農民は麦を作っているのに、畑を減らせや増やせなんて言ったら暴動が起こるわ。起こらなくても生産が落ちたら税金も落ちてしまうわ。
「今はゴズメ王国から買うのがよろしいかと」
「コルディーとしてはなにを売るんだ?」
それを口にできるから叔父様は優秀なのよね。
「ありませんね。カルディム領に他国に売れるものはありますか?」
今のところどちらの国も自給自足できており、なにかが足りないってものもない。これが他国と交流を持とうとしない最大の理由なのよね……。
「……ないな……」
「コルディアム・ライダルス王国は広いんです。広すぎる故に他国に頼る必要もない。でも、サツリエのように他国にしかないものがあり、他国からしたら我が国な狙い目なのです」
「狙い目?」
「我が国は広く、人も多い。それはつまり我が国は大量消費大国でもあるということです」
「……よく、わからないのだが……?」
うーん。そうだよね。どう説明したものかしらね~?
「サツリエのお酒が世に広まれば手に入れようと商人が動くでしょう。そうなれば国内のワインやエールは縮小されるでしょう。農民の仕事も減り、税収も減る。農民や民を守るためにどこかで線を引くしかありません。お互い、損をしないところで。そのためには友好国と決まりを作らなくていけません」
「よくわからないが、ゴズメ王国と繋がる理由はそれか?」
「はい。わたしは隠遁したとは言え、コルディアム・ライダルス王国の貴族。王国の損になることは見過ごせません。ですけど、他国を排除しても王国の未来を潰すだけです。繋がるならまず信頼できる国と繋がるべきです」
「伯爵の娘がやることではないだろう」
「そうですね。でも、繋がってしまったのならそれを利用するまでです」
「……ゴズメ王国は、信頼できる国なのか……?」
「それは難しい問いですね。わたしは、国と国は利益で繋がるべきだと思っていますから。なんの形もない信用信頼なんて最初から期待しておりません」
皆仲良く。なんてものは幻想でしかないわ。
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