第95話 風鈴

 考えが纏まったので嫌がらせの準備を始めた。


「コノメノウ様。これに魔力を籠めてください」


 庭で日向ぼっこしているコノメノウ様の前に壺を置いた。


「……そなた、存外人使いが荒いよな……」


「立っている者は親でも使えと言うでしょう」


「わしは寝転がっておるし、そなたの親でもないんだがな」


「ブレン様の話を聞いて拒否しなかったコノメノウ様はもうわたしの共犯。一蓮托生ですよ」


 もし、わたしが罰せられるなら、あのとき止めなかったコノメノウ様も罰せられないといけない。なにも言わなかったってことは守護聖獣様公認ってこと。協力者ってことだ。


「わしは知らぬ、と言うなら構いませんよ。ブレン様にそう伝えますから」


「どちらにしろわしのせいになるではないか」


「強者はいつだって横暴なものですよ」


「……わしがそんなことできぬとわかっておるクセに……」


 わかっているから巻き込んでいるんじゃないですか。ブレン様の話に乗ったのはコノメノウ様がいるからだもの。


「わたしもこの国が好きですし、土足で踏みにじられるのをよしとしませんよ。コノメノウ様もそう思ったから反対しなかったのでしょう」


 普段、お酒を飲んで寝転がってばかりだけど、この方はこの国を愛し、大切に思っていることはわかるわ。


「そなたはなんでも見通すな」


「なんでもは見通せませんよ。見えることだけです」


 コノメノウ様の表面的な感情しか見えてませんしね。


「……よかろう……」


「溜まった違う壺を持って参りますね。あ、暖かくなりましたし、冷酒を用意させますね」


「飴と鞭の使い方をよう知るヤツだよ」


「働きには相応の報酬を。それがわたしの信条なので。お願いしますね」


 魔力はいくらあっても足りない。嫌がらせの他にもお父様からの催促にも応えなくちゃならないんだからね。


 そのままラルドの工房に向かう。


 以前は館の横にあった工房だけど、別館三号を建てるために川の向こう側に移した。


「また建物が増えたわね」


 ウォーキングで川沿いを歩く度に増えているのはわかっていたけど、こちら側にくることはない。仕事の邪魔をしないようにと思ってね。


「すっかり職人町って感じね」


 と言うか、煙突が伸びた家が多いわね。それに鉄の臭いが充満してない?


「お嬢様。あそこがラルドの工房です」


 ラティアが指差すほうに煉瓦で造られた二階建ての工房があった。


「随分と立派になったものね」


 前は木造の平屋だったのに。


「ラルド親方! お嬢様がいらっしゃいました!」


 開け放たれたドアを潜ろうとしたらタイト(弟子)の声が響いた。


 なにやら慌てるような声がしてラルドが奥から飛び出してきた。


「チェレミー様、ようこそいらっしゃいました。なにかあればこちらからお伺いいたしますのに」


「ごめんなさいね。気分転換をしたかったのよ。今、いいかしら? 忙しいならまたあとにするわ」


「問題ありません。どのようなご用件でしょうか? あ、二階へどうぞ。お茶を出しますので。おい、チェレミー様にお茶を!」


 いや、そんなに慌てなくていいのよ。わたし、そんなに気が短くないんだからさ。


 四十くらいのご婦人と若い娘が四人現れ、あれやこれやと二階に連れてこられてしまった。


「もしかして、ラルドの奥様?」


 いるとは聞いていたし、一緒にきたとはとも聞いている。けど、会ったことはなかったのよね。これと言った理由もないんだけどね。


「はい。妻のラエンです。そして、娘たちです」


「全員女性なの?」


 四姉妹とか萌えるわね。おっぱいもなかなかじゃない。隠し切れないイニシャルなDがアクセルターンしているわ(特に意味はなし)。

 

「はい。なので、タイトを義理の息子として迎えました」


 年齢から言って長女と結婚させたのかな? もし、全員とかだったら工房の裏に呼び出さないとならないわね。


「今日きたのはこれを作ってもらおうと思ってね。どうかしら?」


 メイドを呼ぶ鈴を出した。


「これを、ですか?」


「ええ。指輪作りで忙しいでしょうけど、急いで二対作って欲しいの。あと、こういうのも」


 錬金の壺で創ったものを出した。


「風鈴ですか」


「あら、知っていたのね」


 どこの転生者が広めたか知らないけれど、帝国では夏の風物詩として昔から広まっているそうよ。


「はい。音色が綺麗だと、王都でも愛好している方が結構いました」


 それは知らなんだ。この世界の人にも音を楽しむとかあったのね。


「これは十個作ってちょうだい」


「わかりました。弟子も増えたので急いで作ります」


 弟子、増えたんだ。工房から町工場にランクアップしたみたいね。


 出してもらったお茶をいただき、二、三話をしたら工房をあとにした。


「ラティア。あとでラルドにお酒を届けてちょうだい」


 これからもいろいろお願いしそうだしね、労いのためにお酒でも贈っておきましょう。


「畏まりました。娘さんたちはワインが好きなので甘いのを届けておきます」


 ラルドのところのヒラエルキーがよくわかるセリフね。


「次はアルドのところにいくわ」


 アルドは別館造りは他に任せて、商人町造りに励んでいるそうよ。


 ラティアを先導で向かった。

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