第96話 近くて便利

 以前より商人町も発展していた。


 まあ、今はまだアマデア商会にマーリング商会の二つだけど、店を構えたいと言う話は叔父様を通じてきいている。そのうち挨拶にくるでしょうよ。


 商人町は木造造りがメインで、倉庫は専用の区画を造って煉瓦造りにしようとしているわ。


 どこまで大きくなるかわからないけど、水がないと人は生活できない。治水工事ができやすいよう築いていかないとダメよね。


 幸いにしてカルディム領は川が多い。ミラント川(館の横にある川よ)とソーヤ川の間を商人町にと考えたわけですよ。


「職人も増えたわね」


 職人町の建物も増えたんだから当然と言えば当然か。発展の先も今から考えておかないといけないわね。


「お嬢様。危険ですのでここでお待ちください」


 職人たちの怒号を耳にしたようで、ラティアが一人で駆けていってしまた。近くで見たかったけど、仕方がないわね。


 連れてきたキャラメルを椅子にして待つことにした。


「キュー」


「文句は言わない。あとでリンゴあげるから」


 知能が高くなったせいか、自我まで育ちある。そのうちしゃべり出すかもね。


 五分くらい待っていると、アルドが走ってやってきた。


 ……わたし、もしかして恐れられたりする……?


「お嬢様、お待たせしました」


「いいのよ。お仕事中にごめんなさいね。木屑を袋に入れて館に届けて欲しいの」


「木屑ですか? まあ、毎日出るので構いませんが、いかほどでしょうか?」


「あるだけ持ってきてちょうだい。紙を作ろうと思ってね」


「紙、ですか? 紙って木屑から作るものなので?」


 この世界、紙はあるけど製法までは一般的にはなってはいない。まだ高価なものだからね。


「まあ、木から作られたりもするわね」


 じゃあ、どう作るんだと言われたら困るけどね。そこまで知らないし。


「わたしは魔法があるから木屑からでも創れるのよ」


 錬金の壺に入れたらハイ完成、だし。


「でしたらこちらにも回してもらっていいですかね? 設計図や報告書に使いたいんで」


 こう言っては失礼かもしれないけど、設計図とかあったのね。職人の勘と経験で造っているんだとばかり思っていたわ。


「いいわよ。できたら届けるわ」


 コノメノウ様の働きで魔力は三倍になる。アルドに回しても惜しくはないわ。


「そう言えば、井戸って掘っているの?」


「はい。この辺はどこを掘っても水が出るので」


 昔から水の豊かな地とはされているけど、どこを掘っても水が出るのか。カルディム領、わたしが考える以上に恵まれた地なのかもしれないわね。


「井戸と側溝はよく考えて造ってね。生活排水もいきなり川に流すんじゃなくて濾過してから流すのよ」


「はい。わかっております」


 これは事ある毎に言っている。今からちゃんと環境破壊、環境保全って概念を教えていかないと汚れたカルディム領になっちゃうからね。故郷は美しくあって欲しいもの。


 よろしくねと告げてアマデア商会に向かった。


 アマデア商会は中央区と計画した場所にあり、王宮の資金が入っているから店構えも立派だ。王都にあっても不思議じゃないわね。


 ……ここを本店にでもする気かしら……?


 まだお客なんてわたしくらいなのに、ここまで立派にすることもないんじよないの? それともそれだけの町になると考えているのかしら?


「これはチェレミー様。ようこそいらっしゃいました」


 店を眺めていたら会長のラデガルと支店長のロイヤードが現れた。


「突然ごめんなさいね。アルドのところに用があったからついでに寄らせてもらったわ」


 前にきたの、店ができる前だったからね。店内とか知らないのよね。


「そうでしたか。どうぞ中へ。お茶を出しますので」


 遠慮なくお邪魔させてもらった。


 なにやら店内は雑貨店のような感じになっており、たくさんの商品が並んでいた。


「お客はくるの?」


「はい。職人やその家族がきてくれます。館のメイドや村の方もたまにいらっしゃってくれますよ」


 へー。そうなんだ。意外と商売が成り立っているのね。


「食料品はどうしているの?」


「それはマーリング商会が扱っております。元は輸送を商売していたので近隣を回って野菜や肉を集めております」


 マゴットのおじさん、そんなことしてたんだ。最近見てないところをみると自ら動いているみたいね。


「あら、美味しい紅茶ね」


 出された紅茶を飲んだらいつもと違った味がした。


「はい。メラリーと言う地で採れたものです。王都から運びました」


 ってことは希少なものみたいね。


「館に入れてもらえるかしら?」


「はい。今日にでもお届け致します」


 なるほど。最初から売り込もうとしてたわけね。


「城にも送りたいから多めにお願いするわ。あ、それと、顔料ってあるかしら? 八種類くらいあると助かるのだけれど」


「如何ほどでしょうか?」


「壺一つ分あれば足りるかしら? 多くあればそれに越したことはないわ」


「四日あれば用意できます」


「じゃあ、用意できたら館に持ってきてちょいだい。急ぎ賃は支払うから」


「はい。すぐに」


 やっぱり店が近くにあるって便利だわ。

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