第94話 わたしにはわかる
次の日からブレン様から帝国のことを聞き出した。
事が事なので人選は少なくして、王宮関係者以外ではターリャだけ。この子は筆記が得意みたいで、しゃべっていることを書き写すことが速いのだ。
ただ、知らない言葉がたくさんあるので、知らない言葉があれば遠慮なく尋ねるように言っておいた。
一日では聞き終えないし、わたしもやることはある。午前はいつもの日課を済ませ、午後からブレン様から聞き取りをした。
提督として生きてきた人なので、知らないことは多々あり、秘密にすべきことがあるので正確な情報は得られないけど、六日で大体のことは聞けたと思う。
ターリャが書き写したものを読み返しながら記憶と照らし合わせ、わたしが理解しやすいように書き直した。
それで四日はかかってしまった。まったく、糖分摂取が尋常じゃないわね。
頭痛がするので一日休み、どんな嫌がらせをしようかと考えた。
「生きているわよ」
椅子に座って考えていたらラグラナが顔を近づけてきた。わたしの生存確認法、それしかないの? おっぱいでも額に乗せてきなさいよ。
「顔色が悪いですよ」
「毎日砂糖水を飲んでいるからね」
ラーダニア様から青臭い栄養ジュースをもらったけど、そのあとの気持ち悪さでよけいに体調悪くなる。頭を働かせるには甘いものが一番なのよ。
「王宮には伝えた?」
「はい」
「なにか言ってきた?」
「なにも」
「ふふ。自国のことじゃなければ干渉しないか。近視眼で困るわね」
狙われているってのに呑気なものね。賢いけど、頭の堅い人が纏めているみたいね。
「物事は動く前から動いているものよ。気づいたときは手遅れになっていなければいいわね」
そちらが動かないならこちらから動いてやる義理もないわ。事態が動いてから慌てふためきなさい。
「なにかあるのですか?」
その問いには答えず、また考えに集中した。
空腹で集中力が途切れたので夕食に。がっつり食べたら炭酸割りにしたワインを飲んで気分を落ち着かせた。
「チェレミー嬢。急かして悪いが、どんな状況だろうか?」
「大まかな計画は考えました。今は嫌がらせの順番を考えています」
「嫌がらせ、か」
「裏で操っている者は自分の思い通りにならないとイラつくものです。それがトゲのようなものほど効果的です。その小さなイラつきを重ねると判断を間違えます。そうなれば第一段階成功ですね」
第一段階はあくまでも嫌がらせ。コネメノヒメの野望が頓挫したわけではないわ。
「気に入らないのなら反乱って手もありますよ。被害は甚大になるでしょうけど、コネメノヒメの野望は排除できますね」
「ちなみにどんな手だ?」
「帝都を炎上させて廃墟にすればコネメノヒメは興味をなくすでしょうよ」
ただ滅ぼしたいわけじゃない。おもしろおかしく滅んでいく過程が見たいのよ。そうでなければ力押してやっているわ。
「却下だな」
「よかった。肯定されたらどうしようかと思いました」
王国と帝都が貿易できる関係になることがわたしの目的。片方が滅んだら米もブランデーも手に入らなくなるわ。帝国は日本の風土に似ている。なら、日本らしい農作物があるかもしれない。
その土地、その風土でないと生み出されないものがある。それが手に入るならこの面倒事も報われると言うものだわ。
「帝国に戻ったら商人を取り込んでください。貿易協定をちらつかせれば協力してくれるでしょう。港開発、船の建造、土地開発、利権、大きなお金が動きますよ」
想像を絶するお金が動き、大きな富を生む。それが読める商人なら多少の危険があっても動くでしょうよ。
「チェレミー嬢は大きな金に興味はないのか?」
「生きるだけなら手のひらに載るお金で充分ですよ。すぎたるお金は苦労も生みますからね。わたしは手のひらに乗る幸せで満足できる女なんですよ」
手のひらに乗らないおっぱいはもっと好きよ。下から横からバインバインしたいわ。
「帝国の商人を置いても構わないだろうか?」
「帝国と関わりのある商人なら構いませんよ。さすがに帝国人がいたらいらぬ誤解を生みますからね」
帝国人は東洋系やモンゴル系の顔立ちをしている。西洋系の顔立ちのところでは目立って仕方がないわ。レイドーラのときもウワサが立ったそうだからね。
「これは一年以上かけて、ゆっくりとコネメノヒメを排除していきます。まずは根回しに励んでください」
いきなり貿易なんてできるわけもない。いろいろ下準備をしないとならないわ。
「それなら娘を一人、ここで雇ってもらえるか? 嫁には出せないが、器量はいいほうだ。チェレミー嬢の側近として使って欲しい」
ブレン様の娘?
「どちら似ですか?」
「顔は妻。性格はわたしだな」
容貌とかはどうでもいいけど、おっぱいのサイズを知りたいわ。そこんとこどうよ?
「メイドとしてなら構いませんよ」
おっぱいのサイズは会ってからの楽しみとしましょう。ブレン様、きっと巨乳派でしょうからね。
……わたしにはわかる。巨乳派の臭いってヤツをね……。
「ああ、それで構わない。チェレミー嬢の側ならいろいろ学べそうだからな」
「わたしも娘さんからいろいろ学ばせてもらいますわ」
まずはそのおっぱいのサイズを学ばせてもらうわ。フヘヘ。
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