第88話 テクニシャン
遠出は何事……もあったけど、五体満足で帰ってこれた。まあまあ楽しいものだったわ。
ナジェスも楽しかったと言ってくれ、お土産に買った手袋も喜んでいた。
でも、遠出が終われば城に帰るときがきたってこと。そして、マーグ兄様も学園に戻るときだってことだ。
今さらだけど、学園は夏と冬に長期休みがある。これは貴族の付き合いがあるために長期休みとなるのよ。
帰る前日の夜にお別れ会を開いてあげ、マランダ村で買った短剣にライターの付与を施してプレゼントをしたわ。
最後の夜は一緒に眠り、次の日の昼に城からきた迎えの馬車がやってきた。
「チェレミー、世話になった」
「いえ、大したことはしてませんよ。伯父様には手紙を出して王立学園へ転入できるよう説得しました。あとはマーグ兄様の努力次第です。がんばってきださいね」
「ぼくでできることがあるならなんでも協力するよ」
「でしたら、たくさん友人を作って人脈を築いてください。そのための資金は融通しますので」
王立学園で築かれる人脈は将来の宝となるはず。いずれ必要となったときのためにがんばってくださいな。
「……チェレミーは本当に怖いな……」
「わたしは優しい淑女ですよ」
「そうだな。お前は優しいよ……」
そのあとに続きそうな感じだけど、そこは軽く流しておきましょう。
マーグ兄様は自力で王都からカルディムまできた人。領都から出ている辻馬車で帰るそうよ。
「姉様、また遊びにきてくださいね」
「ええ。約束するわ」
泣きそうなナジェスを抱き締めてやり、おでこにキスをする。なんだか母性愛的なものが湧いてくるわね。
窓から顔を出して大きく手を振るナジェス。なんの最終回かしらね?
見えなくなるまで手を振って見送り、しばらく立ち尽くした。
なんだか親戚が帰ったお正月って感じね。まあ、わたしは帰るほうだったけど。
「……寂しいものね……」
望んでここにきたとは言え、この消失感をちょっとキツいものがあるわよね。孤独なスローライフには堪えられそうにないわ。
前世で長いこと生き、前世の記憶を継いでも孤独に勝てないものなのね。勉強になったわ。
別に人嫌いでもなければ一人が好きな性格でもない。館に閉じ籠ってばかりじゃなくて、もっと世界を見てもいいかもしれないわね。領地から勝手に出てはならぬって法があるわけじゃないんだしね。
とは言え、今年はいろいろありそうだから館を離れるわけにはいかないわね。コノメノウ様のこともあるし。落ち着いてからになるでしょうよ。
「お嬢様。風が吹いてきましたし、中へ入りましょう」
「そうね。体が冷えたわ。お風呂で温まりますか」
この消失感を埋めるにはおっぱいしかないわ。
「コズエ。お風呂の用意をお願い」
アマリアと同じくわたし付きとしたコズエ。エロ要員だったせいか、なかなかのテクニシャンなのよね。もちろん、体を洗う技術のことを言ってますから。イヤらしいこと考えないでよね!
「はい。すぐに用意致します」
腰に下げたベルの一つを鳴らした。
コズエやアマリアに挟まれてお風呂場に向かうと、コノメノウ様がいた。どうしました?
「わしも入ろうと思ってな。構わぬか?」
「構いませんよ。久しぶりに一緒に入りましょうか」
ツルペタになんの興味はないけど、誰かが入るならメイドが一人二人増える。おっぱいが四つになる。大歓迎だわ。
すぐにラグラナとコノハが呼ばれて全裸万歳。わたしはコズエに洗われ、コノメノウ様はラグラナに洗われる。やっぱりコズエの手つきはテクニシャンだわ~。
面積が少ないのにわたしが先に終わり、湯船に入る。
コズエはしゃがんで控えており、アマリアとコノハは立ったまま控えてある。
今日もおっぱい富士が絶景かな絶景かな。桜が舞っているわ。どういうことかは勝手にご想像くださいませ。
「もうよい」
ラグラナの念入りな洗いに飽きたようで、タオルを払って湯船に入ってきた。
「コノメノウ様、ちゃんとお風呂に入ってますか?」
「三日に一回は入っておる」
お風呂が気に入ってくれたんじゃなかったっけ?
「毎日入ってください。臭いと嫌われますよ」
コノメノウ様の頭をつかみ、クンクンと頭を嗅いだ。うーん。お酒の臭いがする。
「そなたはわしの扱い雑ではないか?」
「気のせいです」
髪を上げて首筋もクンクン。まあ、臭くはないわね。ラグラナの洗いもテクニシャンよね。
「嗅ぐでない。なんか屈辱だわ」
「そう思うならちゃんとお風呂に入って綺麗にしてください。臭くても許されるのは十歳までですよ」
「なんだ、その決まりは? 人など臭いだろうが」
「それはお風呂に入ってなく、香水で誤魔化しているからです。わたしを嗅いでみてください」
首筋を出してコノメノウ様に向けた。
「なんの要求じゃ」
そう言いながらもクンクンとわたしの首筋を嗅いだ。
「……なにか、花の匂いがしないか……?」
「いい匂いでしょう?」
これでも毎日お風呂に入り、食べるものにも注意して体臭にも気をつけている。臭い女になんてなりたくないからね。
「まあ、確かに悪くはないな。花の匂いがするというのも気味悪いがな」
「獣臭くなるよりマシですよ」
濡れた犬の臭いとか女として失格でしょう。
「コノメノウ様もいい匂いしてたら皆が嗅ぎに集まってきますよ」
「なんの拷問だ、それは? 集まってくるならこのままでよいわ」
まっ、それもそうね。おっぱいを押しつけながら嗅がれるなら最高だけどさ。
「ラグラナ。コノメノウ様の髪を洗ってあげて」
「畏まりました」
湯船に入り、コノメノウ様の髪を揉むように洗うラグラナの横チチが最高だわ。
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