第87話 好みど真ん中
買い物をすることは昨日のうちに伝え、村長から告知されたのでしょう。商店の方々が協力的だった。
地方領地の小さな宿場。お土産になりそうものなど売ってないけど、ナジェスには珍しいものばかりのようで、あっちに駆けたりこっちに駆けたり落ち着きがない。護衛を任せたカエラも大変そうだわ。わたしは早々に諦めて、マーグ兄様のあとをついて回っているわ。
「マーグ兄様はどんなものを買おうとしているんです?」
「小物か短剣を買おうと思っている」
短剣とはらしくないものを欲しがるわね。別に必要とする生活を送ってないでしょうに。
田舎で暮らしていたらナイフの一つでも持っていても不思議じゃないけど、王都暮らしなら別に必要とはしない。いや、男の人なら護身用として持っているものなのかな? その辺のこと全然知らないや。
「学園って、刃物を持ち込んでいいのですか?」
「許可を得れば持ち込めるな。まあ、学園じゃ不要だから持っている者は少ないと思うけど」
「それなのに欲しいんですか?」
「別に学園に持っていくものじゃなくて、騎乗用の短剣だよ」
騎乗用の短剣? そんな決まりなり作法なりあるの?
「マリアナ。必要なの?」
わたしを護衛しているマリアナに尋ねた。
「そうですね。手綱や鐙に絡まったときに使いますね」
へー。そうなんだ。なら、わたしも持っておこうかしら?
「短剣なら武器屋かしら?」
「そう高価なものでなければ道具屋でも売っているかと思います」
「マーグ兄様、道具屋で売っているもので構わないですか?」
「安いもので構わないさ。万が一のときに使うものだからな」
それもそうね。お土産に買うものだしね。わたしも短剣をお土産にしようっと。
急ぐわけではないので店を一軒一軒覗いていき、マランダで一番の道具屋に入った。
コンビニくらいの店で、結構いろんなものが売っていた。
マーグ兄様は小物には興味ないようで、ここにある短剣を見せてもらい、わたしは小物を見て回った。
「あら、これはいいわね」
蓋つきの小瓶があった。
百CCくらいの容量で、塩や砂糖を容れておくのに使えそうだわ。これは買いね。
「鞄も売っているのね」
手提げから肩がけ、ベルトにつけるようなポーチまで。いろんな種類のが売られていた。
わたしが使えそうなものはないけど、マゴットやルーアたちなら使えそうね。異空間化させて収納力をアップすれば手持ちのものも減るでしょうよ。
このポーチが揃っているし、これも買いね。あ、肩がけ鞄も一つ買っておくか。アイテムボックス化してラーダニア様に渡せば回復薬を作ってくれるでしょうよ。
「チェレミー。ちょっといいか?」
あ、いけないいけない。集中しすぎちゃったわ。ナジェスやマーグ兄様が優先なのに。
「はい、どうしました?」
マーグ兄様のところに向かった。
ここのご主人か、カウンターに立ち、短剣を並べてあった。
「ここから選びたいんだが、もらった金では買えないんだ。もう少し出してもらっていいか?」
「構いませんけど、随分と高額な短剣があるんですね」
まあ、短剣の値段知らないからなんとも言えないけどさ。
「金に困った冒険者が売りにくるそうだ」
へー。そんなことがあるんだ。と言うか、どんだけ困って売りにきているのよ? 八本もあるわよ。
「マーグ兄様はどれをお望みで?」
「これだ」
片刃で、刃渡りは二十センチ。短剣ってよりナイフね。
「地味ではありません?」
派手さを求めても仕方がないけど、これは地味と言うかシンプルすぎない?
「これがいい。ぼくの好みど真ん中だ」
派手な性格じゃないのはわかっていたけど、好みまで地味専なのね。
「じゃあ、それを買いましょうか。ご主人。わたしも買いますから支払いは一緒でお願いします」
わたしは派手さは求めないけど、格好よさは求める。性能より外見が一番に思うタイプなのよ。
……切れ味が悪いなら付与を施せばいいだけだしね……。
両刃の、刃渡り三十センチの、枝や葉が刻まれた短剣を選んだ。わたしの好みど真ん中だわ。
「これをお願いします。ラン。さっきのを持ってきてちょうだい」
小瓶やポーチをランに持ってきてもらった。
運んでくるのを待っていると、ふと壁に飾られた二本の
「ご主人。あれを見せてもらっていいかしら?」
「模造品ですが、よろしいですか?」
「それは都合がいいわ。見せてちょうだい」
壁から外してもらい、手に取ってみた。
模造品と言っても刃が間引いているだけで、重さは本物だ。わたしの筋力じゃ何回か振ったら息切れしそうだわ。
「これもいただくわ」
金貨を一枚出してカウンターに置いた。買い物の勉強は? とか訊かないで。それはまた今度にするわ。
「すみません、お嬢様。さすがに釣りが出せません。細かいのはありませんか?」
「それなら短剣をすべて買うわ。それでどう」
せっかくだし、すべて買ってどんな付与がいいかの試しに使いましょう。
「は、はい。それなら問題ありません」
「ありがとう。ラン。兵士に運んでもらって」
さすがに一人では大変なので兵士を呼んで馬車に運んでもらった。
「マーグ兄様。ナジェスのところに向かいましょうか」
まだあっちにこっちにと走り回っている。これじゃ館に着くのが夜になっちゃうとナジェスを捕まえて落ち着かせ、衣服屋に向かってそこで選ばした。
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