第66話 王立学園

「お嬢様。厨房が回りません。人を増やしてください」


 今日は雪か~。なんてウォーキングから帰ってきたら、ガイル、レイドーラ、ナディアが集まってそんなことを言ってきた。ど、どうしたの?


「回らないって、二人増えただけでしょう。レアナとマーグ兄様、そんなに食べてないでしょう」


 マーグ兄様はよく食べるけど、許容内だ。男の子はよく食べるわね~ってくらいよ。


「いえ、お菓子をねだられるんです。ナディアだけでは追いつかなくてレイドーラも手伝ってもらうと、おれだけでは全員を賄うことができないのです」


 よくよく聞くと、メイドからの要求が激しくて、それに応えるためにレイドーラとナディアがかかりっきりになるそうだ。


「アイスも作って欲しいとせがまれてるんです」


 昨日のことなのにもう館中に広まっているの? まあ、いつでも食べれるようにと付与は施したけどさ。


「何人欲しいの?」


「可能なら三人。最低でも一人は欲しいです」


 つまり、二人は寄越せってことね。


「五日待ちなさい。二人は用意するから」


 さすがに今日の今日では用意はできない。ハローワークがあるわけでも広告チラシを出せるわけじゃないしね。


 部屋に戻り手紙を書く。


 人手が足りないのならあるところから引っ張ってくるしかないわ。


「ローラ。これを早馬で王都の屋敷に届けて」


 あとはお母様の手腕にお任せ。娘のためにがんばって~。


 と、五日後。四人の少女たちが館にやってきた。


 ……わたしが考える以上に男爵家って貧困しているのね……。


 四人の少女は男爵令嬢。すべてが長女だった。さすがに次女三女がくるだろうと思ってたんだけどな~。


「まずは、突然の要望に応えてくれて感謝するわ」


「いえ。こちらこそ感謝致します。恥ずかしながら家の維持に苦労しておりましたので」


 貧困でも男爵令嬢。それなりの威厳と礼儀作法は身につけているようね。


「あなたたちの家のことはお母様から聞いているわ。しっかり働いてくれるのなら相応の賃金は払うわ」


 一応、準備金として金貨五枚を渡すよう手紙にしたためはしたのよ。


「この中で料理をしたことがある者はいる?」

 

 ありますと、四人が声を揃えて返事した。つまり、メイドを雇う余力もないってことか。逆にどうやって生活しているかが気になるわ。


「四人には厨房に立ってもらいます。よろしいかしら?」


 返事がない。異論はないようだ。


「ガイル。四人の腕前を見て使ってあげて」


 約束通り、いや、約束以上のことをしたんだからあとはそちらで教育してちょうだいな。


「厨房ではガイルが上位。貴族の身分は口にしないこと。いいわね?」


 はっきり言っておかないとガイルが大変でしょうからね。ちゃんと釘を刺しておきましょう。


「畏まりました」


 あとはよろしくと下がらせた。


 一応、それぞれの家へ手紙をしたためるとしましょうか。大事な娘さんを預かるんだからね。


「お嬢様。失礼します」


 手紙をしたためていると、ラグラナがやってきた。どうしたの?


「マーグ様の騎乗服ができたとのことです」


「あらそう。なら、マーグ兄様に着てもらいましょうか」


 手紙は一時中断して談話室に持ってきてもらうよう指示を出す。


 飽きずにレオとレナの世話をするマーグ兄様を呼び、衝立の向こうで騎乗服を着させた。


「今さらだが、女性だらけの中で着替えさせるってどうなんだ?」


 言われてみれば女性しかいないわね。多感な年頃の少年には毒でしかないわね。


「うちのメイドに手を出したら切りますからね」


「なにをだよ!?」


 もちろん、二度と使えないものですよ。


「もしかして、同性が好きでした?」


 それなら応援しますよ。隠れBなLが大好きな令嬢もいますしね。


「異性が好きだよ! 変なこと言わないでくれ!」


 なんだ。普通な男の子なんじゃないですか。


「女嫌いで婚約を嫌っていたのかと思ってました」


 実際、わたしがそうだしね。


「君はぼくをどんな目で見てたんだよ……?」


 だからBなLを愛する人だと思ってましたが、なにか?


「ハァー。ただ、まだ結婚したくないだけだ。もっと勉強したいしな」


「なにを勉強したいんです?」


「いろいろだよ。王立学園にいきたいんだ」


 王立学園? そんなのがあったんだ。貴族がいく学園しか知らなかったわ。


「いきたいならわたしが援助しましょうか? もちろん、見返りは求めますが」


 王立学園がどんなところかわからないけど、そんなところがあるなら伝手を作っておくのもいいでしょう。


「見返りって、なにを求めているんだ?」


「カルディム家の発展ですよ。頭のよい方を引き込めればカルディム家の利益となりますからね」


 正しくはわたしの利益にするんだけどね。


 どうしようかと考えて黙ってしまうマーグ兄様。服飾メイドに視線を向けて様子を見にいってもらう。さっさと着替えなさいよ。


「ひ、一人で着替えられるから!」


 あら。マーグ兄様は一人で着替えられるのね。メイドの手を借りるのは女性だけかしら? わたしもできることなら一人で着替えたいものだわ。


 やっと着替えが終わり、衝立から出てきた。


「誰の考え?」


「ナーガです」


 七十前後──ではなく二十歳前後のショートカットの真面目そうなメイドだ。見た目から想像できないわね。


「とても素敵なできじゃない。特に色合いがいいわ。わたしもこの色で作って欲しいわ」


 前のもいいけど、色はこちらが好みだわ。


「畏まりました。すぐに開始します」


 マーグ兄様を囲み、騎乗服の説明をしてもらった。

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