第67話 リトル・ウィッター
朝起きたら一面の銀世界だった。
部屋から見ただけで軽く二十センチは積もっているのがわかった。
「今季一番の積雪ね」
王都でもこんなに降ったことはなかった。なんだかちょっとワクワクするのはわたしがまだ子供だからかしらね?
「お嬢様。今日もウォーキングするのですか?」
アマリアも外を見て不安そうに尋ねてきた。
「するわ」
もう日課だし、雪くらいで中止する気にはなれないわ。中止にしたのは嵐くらいだったしね。
厚手のワンピースにタイツを履き、毛糸の帽子と手袋を嵌めた。
「お嬢様。外套です」
最後に撥水の付与を施した青色の外套を羽織った。
部屋を出ると、今日の護衛当番たるジェンとカエラがコートを羽織って待っていた。
「おはよう」
「「おはようございます」」
「今日もよろしくね」
二人を引き連れて玄関に向かうと、レアナとマーグ兄様が待っていた。
貴族時間ではまだ眠っている時間なのに、二人は館にきてから欠かさず付き合っているわ。
「今日は雪よ。無理しなくていいんだからね」
「大丈夫です。暖かくしましたから」
「こんな雪の日にゆっくり眠ってられないよ!」
レアナともかくマーグ兄様は小学生並みにはしゃいでいる。なんだかんだ言って男の子よね。
レアナの護衛につけていたランも加わり、外に出た。
「おはようございます」
玄関前を雪かきしていた兵士たちが挨拶してくる。
「ご苦労様。風邪を引かないようにね」
皆老兵だ。無理できない年齢なんだから気をつけなさいよ。
「はい。お嬢様方もお気をつけて」
ええと答えて厩舎へ向かう。
「レオ、ラナ、おはよう」
グワァ~クワァ~と元気な二匹。その羽は暖かいのかしらね?
羽根を集めて布団にしたら暖かいかしら? またマゴットにモルチャカの卵を買ってきてもら孵化させて集めてみましょうかね。
「今日は村までいってみましょうか」
山や川のほうは危険だし、村のほうに向かいましょうか。この雪でどうなっているか見ておきたいしね。
「レアナ。グリムワールは持ってきた?」
「はい。持ってきました」
コートを開き、内ポケットから取り出した。
「へー。グリムワール専用のポケットをつけてもらったのね」
いつの間にそんな仕様にしたんだか。おもしろいことするわね。
「ちょっと貸して。風の付与を足すから」
雪の上を歩くのもいいけど、村まで約一時間。おおよそ八キロだ。普通に歩くならまだしも雪では大変だ。風で払いながら向かいましょう。
「凄いですお姉様! お伽噺のウィッターになったみたいです!」
ウィッターとは魔女みたいな意味で、魔法を極めた女性に使われることが多いわね。
「そうね。今のレアナはリトル・ウィッターね」
「リトルってなんですか?」
「小さいとか幼いって意味よ」
この世界にリトルって言葉があったらごめんあそばせ。
上機嫌なレアナ。まだ八歳だし、魔法少女に憧れる年代なのかもね。
「レアナの魔力、こんなに強かったか?」
二キロほど歩いたらマーグ兄様がレアナの持続力に首を傾げてきた。
「グリムワールには特級分の魔力を籠めてありますからね、往復しても間に合うでしょうよ」
コノメノウ様半日分の魔力だ。ほんと、惜しみなくつかえるって最高だわ。
「ぼくも欲しいのだが、もらえるか?」
「構いませんよ。はい」
拡張したワンピースのポケットからグリムワールを出して渡した。
ちなみに異空間を創り、そこに必要なものを保管してポケットから出すようにしました。手ぶらサイコー!
「お嬢様。狼の群れです」
カエラがわたしたちの前に立ち、ジェンが剣を抜いて狼の群れに威嚇した。
「狼なんて初めて見たわ。意外と大きいのね」
さすが異世界。馬くらいのサイズをしているわ。がんばれば騎乗できるんじゃないかしら?
まあ、どこかの大統領のように騎乗趣味はないから捕まえて乗ったりしないけどね。
「カエラ。狼が出ているって聞いている?」
「いえ。聞いておりません」
「あれは精霊狼だ。冬の使者とも言われるもので、人を襲ったりはしない。レアナのグリムワールに気づいて様子見にきたんじゃないか?」
精霊狼とか、そんなものがいる世界なのね。ふっしぎー。
「……お姉様……」
「大丈夫よ」
抱きついてきたレアナに腕を回して落ち着かせた。
しばらく精霊狼はこちらを見ていたが、風が吹いて一瞬目を離したら消えてしまった。
「帰ったらコノメノウ様に報告しておかなくちゃね」
グリムワールにじゃなくて、コノメノウ様の魔力に寄ってきたのかもしれない。念のため、報告だけはしておきましょう。
「さあ、いきましょうか」
精霊狼が消えると雪も止み、太陽が出てきた。
これが精霊狼がやっているなら相当強い存在かもしれないわね。何事もないといいのだけれど。
「お姉様、村が見えてきました!」
館に向かうとき通ったのだけれど、初めてきたかのようにはしゃいでいる。まあ、自分の足でどこかに到着したことが嬉しいんでしょうよ。
まだ七時くらいなのに、起きて雪かきをしていた村人に気づかれ、なんやかんやと集まってきて、村長さんまでやってきた。
「お嬢様、どうかしましたか?」
「いえ。朝の散歩よ。今日はこちらまできたの。悪いけどちょっと休ませてもらえるかしら?」
これだけ集まられたらすぐには帰れない。お茶でもいただいて交流していきましょうかね。
「はい。我が家へどうぞ」
と言うことで、村長さんの家に向かった。
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