第27話 お酒は二十歳になってから

 お昼になり、レイヤードが土鍋で米を炊いてくれた。


 元の世界ほど白く輝いていないけど、安い炊飯器で炊いたよりは美味しかった。これは、レイヤードの腕でしょうね。


「美味しいわ。次は肉と野菜を一緒に炒めたものを米の上に乗せてみて。味つけは甘辛で。汁は米に染みるくらいがいいわ」


 おかずはガイルが作ったもので、ラムステーキと茹で野菜。小鉢が八種類。そして、羊骨スープと、ご飯によく合う。やはりパンより米だわ。


「ごちそうさま。とても美味しかったわ。夜も楽しみにしているわ」


「はい。夜は少し手の込んだものを用意します」


「それは楽しみね。なにか専用の道具が欲しいなら遠慮なく言いなさい。美味しいものが食べられるなら全力で用意するから。ガイルも協力してあげてね」


「畏まりました。でしたら、レイヤードに包丁を用意してやっていただけませんか? 手持ちの包丁はあまり質がよくなかったので」


「マクライ。話を聞いて領都から取り寄せてちょうだい」


 ガイルの包丁も領都の鍛治師に作らせたもの。すぐに取り寄せられるでしょうよ。


「畏まりました」


「マゴット。午後は好きにしてなさい。暇ならジェドの練習か職人に依頼でもしてなさい」


 そう言い残してわたしは部屋に戻ってお昼寝。一時間くらいして起きたら錬金壺に五割ほど魔力を注いだ。


「ふー。ゲームのようなものを創るのも大変よね」


 魔力を変換して物質を創る。なんてものはまず不可能。いや、探せば世の中にいるかもしれないけど、わたしには無理。百年コツコツやったとしても無理でしょうよ。


 ならば、材料をぶち込んでできるものを創ったのだけど、今の段階で調味料を創るのが精一杯。まだ望むものを創るにはほど遠いわ。


「ブランデーは樽に付与したほうが楽そうね」


 いつか米が手に入ったときのために魔力を籠めていた壺を棚から出し、机の上にセットした。


 呼び鈴でメイドを呼ぶと、ローラがやってきた。


「誰か男性にお願いして倉庫から米を一袋持ってきてちょうだい」


「畏まりました」


 しばらくして兵士のマローダが米が入った麻袋を担いできてくれた。二十キロはありそうなものを軽々しく担ぐなんてまだまだ元気なのね。


「マローダ。この壺に米を入れてちょうだい」


 そう指示を出して米を入れてもらった。


 十リットルも入らない容量だけど、壺の中は亜空間化になっており、そこで米をお酒に錬金してくれるの。あ、難しいことを考えちゃダメよ。そうなんだ~くらいにしておきなさいね。


 すべての米が入ったら次は水。容量を拡張させたポットをつかみ、壺の中へ水を注いだ。


「こんなものかしらね?」


 まあ、多いに越したことはないわ。自動調整してくれるからね。


 前世で飲んだ清酒──純米酒の味を思い出しながらそれになるよう付与を施した。


 チーン! とはならないけど、亜空間から引き出しに移るよう転移付与を施してある。


 一分くらいして左の一番下引き出しを開けると、壺に透明な液体が入っていた。


 溢さないよう付与をして引き出しから出した。


「まあまあかしらね」


 そう言えば、精米してあったわね。帝国には精米するなにかがあるのかしら?


「匂いはいいわね」


 あらゆる工程を数秒でこなしてくれて、ここまでいい香りにしてくれるんだから付与様々ね。与えてくれた神様、ごっつあんです!


 指を入れて舐めてみる。


「うん。美味しい」


 十五歳がお酒なんて飲んじゃダメ、とか言わないように。この世界、未成年がお酒を飲んでも罰する法はありません。だけど、お酒は二十歳のところはしっかり守るように。わたしとの約束よ。


「ローラ。マローダ。あなたたちも味見してちょうだい」


 わたしの味覚は元の体と変わってないと思うから美味しいと感じるけど、飲んだことのない人の舌にどう感じるかわからない。二人に確認してもらいましょう。


 カップを二つ出し、掬って二人に渡した。どうよ?


「甘くて美味しいです」


「わしはもっと辛いのが好みかな」


 甘いと言うことは酸度が低い米なのね。わたしも辛味があってもいいと思うけど、飲みなれてない人にはこの味がいいのかもしれないわね。


「ありがとう。館の皆にも飲ませて味を聞いててちょうだい」


 まだあるのでわたしはあとでこっそり飲ませていただきます。


「余るようなら職人たちにでもあげてちょうだい」


 好みがあるしね、無理に飲む必要はないわ。


 なんて心配はなかった。職人たちに渡ることなく清酒は館内で消費されてしまったようだ。


「お嬢様、とっても美味しかったです!」


 主に清酒を気に入ったのはメイドたちで、特にローラが鼻息荒く美味しかったと叫んでいる。そんなにか?


「そ、それはなにより。またマゴットに買ってくるようお願いするわね」


 清酒は好きだけど、ご飯がない人生も嫌だ。お酒とご飯、どちらかを取るならわたしはご飯を取るわ。

 

「マゴット様、よろしくお願い致します!」


 メイドたちに囲まれてお願いされるマゴットも気圧されて約束させられている。


 叔父様に持っていくのはブランデーだけにしましょう。メイドたちに恨まれたくないしね。


 勝手に席に座り、レイヤードが作ってくれた、なんか東南アジアっぽい料理をいただいた。あ、香辛料を錬金壺に入れるの忘れてたわ。

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