第28話 売り逃げ

「じゃあ、いっぱい稼いでくるよ!」


 数日後、マゴット隊商がバナリアッテに向けて出発していった。


 別に見送ることもないのだけれど、メイドたちの期待に主が無関心ってわけにもいかない。ウォーキングのついでに見送ることにしたというわけよ。


「ラティア。今日も畑のほうにいってみましょうか。レオ、ラナ、いくわよ」


「グワ!」


「クワ!」


 二匹のモルチャカが仲良く返事をした。


 生憎、魔力回復のため眠っていたから孵化する瞬間は見れなかったけど、初めて見たのがわたしということで親認定されたわ。


 二匹はまだわたしの腰くらいしかないけど、成長速度は速いものだ。この二日で倍にはなっているわ。


 モルチャカは基本、雑食みたいだけど、幼体のときは柔らかい草か虫を食べるそうだ。


 昨日はマゴットから聞いたように豆を蒸かしたものを潰して与えたけど、自然の中にあるものを食べさせるのも必要だ。レオとラナにはわたしの足となってもらわなくちゃならないのだから強くなってもらわないとね。


「モルチャカって随分と賢いんですね」


 素直にわたしの言うことを聞いているレオとラナにラティアが驚いている。


「わたしの魔法で従わせているのよ」


 さすがに孵化したばかりで人の言葉を理解して、従うなんてことはない。


 二匹にはわたしが付与した首輪をさせている。


 服従と知能増加。それで五歳児までは知能がついているはずよ。昔、鳥で試したからね。


 ……ちなみにその鳥は寿命で死んでしまいました。ムク、次は人に転生できることを願っているわ……。 


「誰か、土の中から虫を探してちょうだい」


 村の男性諸君。わたしは虫を触りたくないのでよろしくお願いしますわ。


 皆、農夫なだけあって、手にした棒で地面を掘り、あっと言う間にミミズのような白い虫を集めてきた。


「レオ、ラナ、食べられる?」


「グワ!」


「クワ!」


 と、一鳴きすると、白いミミズを奪うように食べ始めた。


「器用なものね」


 その嘴でニョロニョロなのをよくつまんで食べられるものね。


 バケツ一杯分をあっと言う間に食べちゃった。館を出る前にも食べたのに、まだまたま入りそうな勢いね……。


「美味しかった?」


 グワグワクワクワと騒いでいる。鳥の言葉を理解できるなにかを創ったほうがいいかしら?


「明日くるときバケツ一杯の虫を集めてもらえる? 銅貨二枚で買い取らせてもらうわ」


「あの、でしたらわしらにも火つけ棒をいただけませんでしょうか? うちのもんにどうにかならないかと言われてまして……」


 あ、そう言えば地元には還元してなかったわね。


「いいわよ。ただ、永遠に使えるものじゃないわ。使い方では十回しか使えないわよ。そのあとは売る形になるけどいいかしら?」


「もちろんです! お願いします!」


 てことで取引成立。次の日、村人総出か! と叫びたいくらい、大勢でやってきた。バケツにいっぱいの白ミミズを集めて……。


 そんなに持ってこられても困るわ! とも言えない。どうでもいい壺を拡張させ、そこに土と一緒に入れておくことにした。


「さすがに数が多いから明日、取りにきてちょうだい。ラティア。誰がきたか控えていてちょうだい。不正はダメよ」


 そういうところはしっかりさせておかないとね。不道徳な者に与える慈悲はないわよ。ちゃんと教えておいてね。


「はい。村長にも伝えておきます」


 わたしの言いたいことを察してくれたラティア。ご褒美にあとでクッキーをあげましょう。


 あとのことは任せ、レオとラナにお腹いっぱい白ミミズを食べさせた──のがいけなかったのかしら? 五日くらいで一メートルくらいまで育ってしまった。いや、育ちすぎ!


「一月もしないであなたたちに乗れそうね」


 さすがにここまで育つて白ミミズは食べなくなり、豆や穀物類を食べるようになった。


「もしかして、豆を欲しがったのって、モルチャカを増やすため?」


 この国と帝国の間には海がある。船で五日から六日の距離だとか。その距離がどれほどかはわからないけど、この国を攻めるならかなり離れているとわたしは思う。


 そうなれば、帝国は陸続きのどこかと戦争をする。または強力な勢力と戦うかでしょうね。


 うちの国も大国であり、バカではないから帝国の事情も把握しているはず。今回のことも見抜いていても不思議ではないわ。


 とは言え、このバブルを止める術はないでしょう。この儲け話を邪魔したら国のほうが恨まれちゃうからね。いったん引火した火は燃えるものがなくなるまで鎮火しないでしょうよ。


 まあ、国のことは国に任せて、わたしはこの状況を利用して、弾ける前に売り逃げさせてもらいましょう。


 秋が深まり、麦の刈り取りも終わりそうな頃、マゴットが馬車を五台に増やして戻ってきた。


「また儲けたみたいね」


「ああ。それはもう怖いくらいに。帝国のヤツら、言い値で買うほどだったよ。あれは異常だ」


「ふふ。欲に眩んだ人に聞かせてあげたいわね」


「無理だな。熱に浮かされて誰の声も届かないよ」


 でしょうね。出せば高く売れる。ドーパミンがどばどは出ていることでしょうよ。


「今年の麦の値はどう?」


「安くなっている。チェレミー様が言ったように来年は畑を増やすなんて息巻いている貴族もいるそうだ」


「人間、ほどほどでいるのが幸せなのにね」


 まあ、わたしも儲けようとしているんだけどね。


「荷を降ろしたら麦の買いつけに出るよ。今が安値なんでな」


「そう。新たな箱を用意したわ。持っていきなさい」


 マアリアに無理をさせて十八箱は創った。ちょっとした店の一年間の販売量にはなるずだわ。


「チェレミー様、愛しているよ!」


 わたしもあなたのおっぱいは大好きよ。今日は一緒にお風呂に入りましょうね。

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