第22話 ジェド(チェス)

 ふぅー。いいおっぱいでした──じゃなくて、いいお湯でした、でしょうが!


 いけないわね。念願のおっぱいに囲まれたスローライフに欲望がダダ漏れになっているわ。これは少し気持ちを引き締めないと。欲望に溺れたらわたしの立場が危ぶまれるわ。


「いや、風呂のあとのスパークリングワイン、最高だな!」


 はだけたバスローブから覗く胸の谷間も最高よ。ちょっとそこに顔を埋めたいわ。


 って、言ってる側から欲望丸出しね。静まりなさい、わたしの欲望よ。


 平常心平常心と唱え、いつの間にか現れたラグラナに体を拭いてもらい服を着せてもらった。と言うか、洗ってもらうのはいいけど、なにもかもってのは人間をダメにするものだわ。せめて着替えくらい自分でできるようにしないとね。


「お嬢様。このあとは如何なさいますか?」


「テラスで少し涼みましょうか。マゴットから旅の様子も聞きたいしね。軽いお酒となにか軽く摘まめるものをお願い。わたしはよく冷えたカフェオレね」


 まだ魔力を消費してないからお腹が空いてないのよね。ちなみに今は午後の三時くらいです。


「畏まりました」


「あ、チェレミー様。お土産を持ってくるよ」


「ええ。アマリア。マゴットをよろしくね」


 そう言ってわたしは先にテラスに向かった。


 テラスにくると、麦わら帽子を被ったサナリが家庭菜園で作業をしていた。


「サナリ。豆の様子はどう?」


 テラスの端までいき、サナリに声をかけた。


「あ、お嬢様。とても順調です。虫もつかず、病気もありません」


 畑にも付与を施し、虫が寄ってこないようにしたり病気が発生しないようにしてある。まあ、本当にできるかは謎だったけど、わたしの付与畑にも施されるのね。植物には無理だったけど。


「そう。涼しくなったとは言え、無理せず休み休みやりなさい」


「はい。もう少ししたら休みます」


 よろしくねと告げ、テーブルについた。


「いい椅子じゃない」


 クッションもほどよい固さでわたしのお尻にフィットしているわ。中身なによ?


「職人たちがお嬢様に合う椅子を作りたいと言うのでお嬢様の体型を教えておきました」


 わたしの体型? どう教えられるの? まあ、わたしの体を一番見ているのはラグラナ(元マレア)。教えられると言うなら教えられるんでしょうよ。


 すぐにカフェオレが運ばれてきてまだ火照っている体を冷ました。ふー。美味しい。


 すべてを飲み干す頃、マゴットが鞄を持ってやってきた。


「まずは軽く乾杯しましょうか」


 わたしも炭酸で薄めたワインをもらい、マゴットと乾杯をした。


「やはりチェレミー様のところのワインは格別だな」


 付与で熟成させているからね。出回っているのと一味も二味も違うはずよ。


 摘まめるものが運ばれてきたのでわたしも酔わないようお腹に入れておく。あら、このプリットの酢漬け、美味しいわね。


「チェレミー様。これはバナリアッテで手に入れたものだ」


 なんだか手当たり次第って感じね。工芸品や露店で買っただろう装飾品。果物や野菜、串肉なんもある。


「本も買ったのね」


「コーデリア帝国では恋愛物語が流行っているそうで、こちらにも流れてきたから買ってみた」


 ふーん。帝国ではそんなことになっているのね。まあ、読書はあまり好みではないけど、あちらの流行りを知るにはちょうどいいわね。


「本ていくらするものなの?」


「うーん。ものによりけりだが、それは五千ルコタはしたな」


 銀貨五枚か。そこそこするのね。百ページあるかないかの本なのに。


「この果物も帝国産?」


 なにか形はマンゴーっぽいが、緑色をしている。食べられるの?


「これは甘芋だよ。蒸すとホクホクして美味いそうだ」


 甘芋? サツマイモ的なものかしら? これなら焼いても美味しいんじゃないかしら? 試しにオーブンで焼いてもらおうかしらね。


「これは今が時季なの?」


「もうちょいあとだな。それは飼料用のものだ。一応、人も食べられるとは言っていた」


「じゃあ、またバナリアッテにいったら一箱くらい買ってきてちょうだい。秋に食べるから」


 チップスや干したりして冬の備えになるか試してみましょう。干し芋をストーブで焼いて食べるの好きだったのよね。


「バナリアッテは豊かなところなのね」


 他にも見たこともない野菜や果物があり、まんまオレンジまであった。


「ああ。魚も美味かったよ。そっちはガイルに渡しておくよ」


「ありがとう。魚、食べたかったのよね」


「それはよかった。市場を回った甲斐があるよ」


 やっぱり海があるところはいいわよね。刺身やお寿司が食べたいわ。


「そうそう。帝国でジェドって遊戯が流行っているそうで、バナリアッテにも流れてきているから買ってみた」


 鞄から出されたのは白黒の盤と駒が入ったケース。明らかにチェスだった。


「いつから流行っているの?」


「四、五年前と言ってたかな? どこか偉いところの子息が発明したそうだ」


 わたしがいるのだから他にもいるんじゃないかと思っていたけど、帝国に生まれたのね。わたしと同じ転生者が……。


「ありがとう。暇潰しができるわ」


 チェスは中学の部活でやっていた。


 転生者がいることを悟られたくなかったから手を出さなかったけど、先にやってくれたのなら遠慮はいらないわね。楽しく遊ばせてもらうわ。

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