第19話 誤魔化している
夏の終わる頃、貯水槽と言う名のお風呂が完成した。
望んだ形ではないけど、田舎の館なら充分なものでしょう。ライオンの口からお湯が出るようなものを望んでいるわけじゃないんだしね。
「ご苦労様。とてもいいできだわ」
「ありがとうございます。喜んでいただけたのなら頑張った甲斐がありやす」
「ええ。嬉しいわ。引き続き宿舎や厩をお願いね」
「はい。お任せください」
では、次はわたしの出番ね。
川に向かい、「起動」で設置した壺を発動させた。
「これで貯水槽に設置した壺から水が出て、止めるときは停止で水を吸うのを止めるわ」
ナディア、サナリ、タージ、そして、下男のロイムに使い方を教える。マレアはオマケね。
一人一人やらせ、吸い込ませたまま貯水槽一号へ向かった。
「やはり入口が狭いから溜まるまで時間がかかりそうね」
バケツくらいの口から出ているから縦五メートル。横十メートル。深さ二メートルのところに溜まるのは一時間くらいかかるかしら?
「吸い口でゴミは排除しているけど、窓からゴミが入ってくるからこまめにゴミ取りをしてちょうだい」
ここでも壺に触りながら停止と起動をやらせた。
「だいたい一月毎に溜めるのを代えて、カビや藻がつかないようにしてね」
ちゃんと二つ造ったので定期点検も掃除もバッチグーよ。
「貯水槽の切り替えはこの板で行うわ。ここで切り替えと言葉を発すと切り替わるし、どちらも止めたいときは完全停止で止まるわ」
一定以上溜まると一メートル八十センチくらいのところに開けた穴から外に流れるよいにしている。切り替え場所が溢れることはないはずだわ。
次はお風呂に向かう。
家庭風呂の倍にしたけど、こうして見ると小さいわね。畳一畳分、ってところかしら?
まあ、ここはわたし専用だし、使用人が入るお風呂は別だ。このくらいでも問題ないわね。
壺に手を触れて「発熱」と発し、しばらくしたら「放水」で湯船にお湯を溜めた。
温度はだいたい四十度くらいかしら? この体には熱いかな? 前世じゃ四十五度がマイ・ベスト・温度だったのにな~。
「もう一つのお風呂も同じだからあとで試してみてちょうだい。それと、順番はしっかりと決めて入りなさいね」
ラッキースケベはダメよ。わたしは混浴──洗ってもらうことで我慢するんだから。
次はトイレ。一応、わたし専用と使用人が使える場所は離しており、わたし専用はゆったりとした空間にして、望んでいたウォシュレット機能はつけたわ。
まあ、木の筒が伸びてきてピーッとするだけの機能だけど、今はこれで構わないわ。前世のようなレベルを求めたらトイレ会社を立ち上げそうな心意気でやらないといけないでしょうからね。
ただ、トイレットペーパーは開発したいわ。終わったら布で拭くって嫌だもの……。
「掃除は大変でしょうけど、こまめにしてちょうだいね」
気に入ったらトイレ読書をしたいからさ。あ、さすがにトイレ飯はしないわよ。
もう一度、最初から使い方を教え、やらせてみる。
「お嬢様。これだとメイドか下男を増やさないと回せないのではありませんか?」
一通り使い方を教えたらラティアがそんなことを言ってきた。
この子は不備やわからないことがあると訊いてくるから助かるわ。イエスマンだけだと間違った方向にいっちゃうからね。
「確かにそうね。二人、いえ、三人いたら回せるかしら?」
「まずは下男を二人を増員したらどうでしょう? 通いの者でいいのならすぐにでも村から呼べますし」
「じゃあ、マクライと相談してちょうだい。マージ。あなたを下男頭に昇格させます。給金も上げるから増員者を上手く使ってちょうだい。わからないときはマクライと相談しなさいね」
「はい! お任せください!」
給金アップでやる気もアップ。空回りしないでね。
「さっそくだし、お風呂に入りましょう。ラティア。用意してちょうだい」
さあ、お待ちかねの混浴──お風呂よ。熱い湯に浸かりましょう!
「はい。すぐに用意致します」
早くね~。
お湯が溜まっていくのを心ウキウキ、表情はすませてラティアがくるのを待つ。
「お待たせしました」
現れたのはマレアだった。もう一度言いましょう。現れたのはマレアでした。
「……あなたはラティアの仕事を奪いすぎよ……」
そして、わたしを絶望に落としすぎよ。わたしはおっぱいぷるんな子と入りたいのよ! もう一度言うわ。おっぱいぷるんな子と入りたいのよ!
「ここにいる間はお嬢様のお世話をしとうございます」
しとうございますじゃないよ! そんな言葉使ったことないでしょうが!
「まあ、なんでもいいわ」
今日はお風呂を楽しみましょう。転生して十五年。待ちに待ったお風呂なんだしね。
「お風呂は裸で入るものよ。あなたも脱ぎなさい」
わたしは湯船にタオルを入れるのを嫌う派であり、水着で入るとか万死に値するわ。スケスケになる湯着ならオールオッケーだけどね。いや、寧ろグッドじゃね? あーでも裸の付き合いも捨てがたいわ……。
「わかりました。ラティア。お嬢様の服をお願いします」
あ、いたのね。
ラティアが脱衣所に入ってきて、わたしの服を脱がしてくれた。
「マレア。歳の割りに肌艶がいいわね。と言うか、あなた、歳を誤魔化してない?」
見た目は六十を過ぎているように見えるけど、肌艶は三十手前としか思えない。胸の張りもいいじゃないのよ。ステキよ。
「……六十ですよ……」
いや、確実に四十以下。下手したら三十前半の肌艶だわ。
けど、ここにはラティアもいる。影であることを言えないのだからそれ以上は言わないでおいた。
「そう。じゃあ、お願いね」
桶で湯をかけてもらい、昔みたいに体を洗ってもらった。
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