第15話 ウォーキング

 体を拭き終わったら新しい下着をつけ、今日は浅葱色のワンピースを選んだ。


「見慣れると、このワンピースと言うのもいいですね」


「そうでしょう。着飾るだけがお洒落ではないわ。引く美学があるのよ」


 まあ、基本、わたしは服なんてなんでもいい派だ。簡単に着れて簡単に脱げたらTシャツにパンツでもいいくらいよ。やったら怒られるのでワンピースで妥協しているのよ。


「引く美学ですか」


「別にドレスを否定するつもりはないわ。とても綺麗だしね。けど、あれはあれで体の線を誤魔化してしまう。女性としてのよさを出すにはワンピースみたいな薄い服がいいのよ」


 女性のよさを持ってないわたしが言っても説得力ないけど!


 着替えが終わり、髪を整えたら白湯を出してもらいゆっくり飲む。


「お嬢様は、ずっとこれを続けているのですね」


「そうよ。毎日寝る前と起きたあとに飲むと体にいいんだから」


 女の体はなにかとデリケート。月のものがあったり、すぐ便秘になったりと、体調管理が大変。ほんと、TS転生って辛いっスわ~。


「お母様もやっている?」


「はい。体調がよいと続けております」


「それはなにより。お母様、冷え性だったからね」


 そんなお母様の体質を遺伝してるのか、わたしも冷え性気味なのよね。だから、ここに移ってからはウォーキングするようにしたの。


 六時になり、日傘を持って玄関に。そこにはウォーキングについてきてくれるサナリが待っていてくれた。


「おはようございます、お嬢様」


「おはよう、サナリ。外はどう?」


「はい。今日も天気がいいですよ」


「そう。でも、少しは雨が降ってもらいたいわね」


 家庭菜園の水やりも大変。ちょっとは大地を潤して欲しいものだわ。


「今日はどこの道をウォーキングしましょうかね?」


「川沿いを山のほうに向かいましょう。緑が綺麗ですよ」


 と言うのでそちらに向かうことにした。


 館の周りは自然が多い。逆を言えばド田舎ってこと。見るものすべてが自然なのよね。


 元の世界なら大都会のほうが暮らしやすいけど、こんな中世のような世界ではド田舎のほうが暮らしやすい。なんたって自由にできるからね。


「家が建っているわね」


 昨日もウォーキングしたはずなのに、なぜか家が三軒建っていた。え? わたし、一月くらい眠ってた?


「はい。他の町からも職人がきたので急いで建てたみたいです」


「家って一日で建てられるものなのね」


 この世界の職人、加速装置でも搭載しているの?


「さすがに一日は無理ですよ。今回は他で解体したものを持ってきて組み立てたみたいです」


 うん。それでも加速装置搭載説は消えないから。


「なんだか村を通り越して町になっちゃいそうね」


 館から近くの村まで一キロちょっと。通って通えないことないのに住み着くこともないでしょうに。わたしは……まっ、なんでもいっか。静かなのも寂しいしね。ちょっと賑わっているほうがちょうどいいわ。

 

 そろそろ働く時間なので、職人たちがたくさん出てきた。


「お嬢様、おはようございます」


「おはよう。今日もよろしくお願いね」


 職人たちに笑顔で挨拶する。気持ちよく仕事をしてもらうにはこちらも気持ちよく挨拶しないとね。


 人間、給金だけではモチベーションは上がらない。男は女の笑顔でやる気と元気が湧いてくるのよ。


 職人たちに挨拶を送ったら川沿いに向かい、上流に向かって歩き出した。


 道は整備されてないけど、厚手のブーツと虫対策はしてある。そして、風の指輪をしているので草を刈りながら進んだ。


「川遊びもいいかもしれないわね」


 大きな川ではなく、水質も綺麗だ。変な虫とか泳いでもなさそうだし。あ、魚が泳いでいる。食べられるかしら?


 川を眺めていたら上流から大きい熊が走ってきた。


「え? パンダ?」


 この世界、中国の山に繋がっているの?! 


「お嬢様!」


 健気にもわたしの盾になろうとするサナリ。格好いいことしてくれるじゃないの。わたしの乙女心がキュンとしちゃうじゃない。


「危険なの?」


「はい。ゴーギャンはこの一帯でとても狂暴な魔物です」


 見た目は愛くるしいのに残念ね。ユウユウと名づけて飼おうと思ったのに。


「じゃあ、狩っておきますか」


 魔弾の指輪でサクッと撃ち殺した。伯爵令嬢が護衛もなしに出歩くわけないじゃない。盗賊が団体できても返り討ちできる装備は身につけていますわ。オホホ。


「マレアを呼びましょうか」


 呼び鈴を激しく鳴らした。異常事態発生。すぐにこられたし。って合図よ。


 しばらくしておじいちゃん兵士と職人たちを連れてマレアがやってきた。


「お嬢様、ご無事ですか!」


「大丈夫よ。それより、あのパンダ──じゃなくて、ゴーギャンを片付けてくれる? あ、食べれるなら職人たちに振る舞ってちょうだい」


 見た目は愛くるしいけど、殺してしまったのなら食べてあげるのが供養。今日を生きるわたしたちの糧となってもらいましょう、だ。


「まだいるかもしれないぞ! 周辺を探れ!」


「お嬢様。危険です。館に戻りましょう」


「ええ。皆には無理するなと伝えてちょうだい。命を懸けてまで追うことはないわ」


 大事な働き手。ゴーギャンごときで失われては困るもの。


「サナリ。あなたも戻りなさい」


 残ろうとするサナリを連れて館に戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る