第14話 貴族は大変
わたしの朝は早い。
寝る前に魔力を壺に籠めてから寝るから朝までぐっすり。魔力が回復すると目覚めちゃうのよね。
この世界、時計は発明はされているけど、高価故に所有できる者は限られている。伯爵令嬢ごときに買える値段じゃない。でも、わたしには付与魔法がある。鏡に時計の能力を付与したのよ。
そこに「どんな理屈よ?」は言ってはならぬ決まりです。できるんだから仕方がない。それで容認してくださいませ。
上半身を起こし、サイドテーブルに置いてある呼び鈴をつかんで鳴らした。
しばらくしてマレアがやってきた。
「おはようございます」
「はい、おはよう。あなた、完全にラティアとマーナから仕事を奪ってるわよね」
なにかもうここのメイドとして働いているけど、うち、メイド足りてますから。と言うか、もう急ぎの
なんて言っても聞かないから黙っているけどね。どうせ、マレアはお父様の命できている。娘でしかないわたしには逆らえないもの。
……まあ、秘密裏に動いていますけどね……!
「なにもしないというのも辛いものですから」
「だったら帰りなさいよ。王都の屋敷はいいの?」
メイド頭を寄越すってのも大概だけど、仕切る者がいないと屋敷も大変じゃないの? お母様、どうしているのよ?
「育成はしております。今は、タリナにメイド頭代行をさせております」
確か、マレアの右腕として働いていたメイドよね? 一応、お兄様担当だったからあまり絡むことはなかったけど、ロッテンマイヤーさんみたいな人だったわね。
「今思うと不思議なのだけれど、マレアがお兄様につくべきなのに、なぜわたしの世話役だったの?」
「あまり泣かなかったからです。なにか問題があるのかと奥様が心配され、わたしがつくことになったのです」
まあ、産まれたときから記憶があったからね。あっれれ? おっかしぃなぁー! とか言えないわ。精神的にくるわ。
「小さい頃からお嬢様は変わっていました」
「その自覚はあるわ。お父様もお母様もよく捨てずにいたわよね。わたしならこんな不気味な娘、捨ててるわ」
中身が男で、おっぱい星人とか、捨てる要素しかないじゃない。誰も文句は言わないでしょうよ。
「変わっていらっしゃいましたが、お嬢様は聞き分けのよい子で、一度の教えで身につけておりました。旦那様や奥様、お坊っちゃまとも仲良く、絵に描いたような温かいご家族でした」
きっと、マレアにはそれが異様に見えたのでしょうね。
「そうね。いい家族で、いい家族だったわ」
こんな娘じゃなく、心まで女だったらさらによかったでしょうね。
まっ、いつまでも温かい家族をやっていられるわけじゃない。女のわたしは十六か十七には家を出ていた身。そして、お兄様が結婚して新たな家族を築いていたことでしょうよ。
「そう言えば、お兄様に婚約者がいるって聞いたことはないわね。ちゃんといるのかしら?」
わたしと同じでモブだ。家も可もなく不可もなく。これと言った財産もない。同じ伯爵家からもらうのも大変なんじゃない?
「おりますよ。ローリグ侯爵様の御息女と婚約しております」
「ローリグ侯爵? なにかどこかで聞いたような聞かないような……」
はて、どこでだったかしら? まったく思い出せないわ。
「お嬢様の婚約者だったダイルト・ローリグ様です」
あ、あー! そうだったそうだった。婚約破棄されたからすっかり頭の中から消えていたわ。
「でも、なぜ? 婚約破棄でケチがついたんだから嫌がるのではないの?」
「火傷をした令嬢を捨てたなど、あちらの家としても外聞が悪いだけです」
「で、お兄様になったわけ」
それで外聞がよくなるかはわからないけど、両家は仲良くしてますよ~とは見られるか。
「こう言ってはなんですが、あちらの家も侯爵としては格はかなり下です。同位のご子息からは難しいでしょう」
「それで下からと言うわけね。貴族の婚姻も大変ね」
わたしは抜けたからもう他人事。がんばっておくんなまし~だ。
「それに、お嬢様が創り出した
「随分と性急ね。ローリグ侯爵ってそんな人なの?」
お父様とは学園で友達だったとは記憶してるけど。
「あちらもお立場や領地での問題があります。
「こちらに飛び火しなければいいのだけれど」
表に出されるなどゴメンだわ。ちょっとローリグ侯爵領を調べておいたほうがいいかもしれないわね。
「お嬢様。お湯が冷めてしまいます」
「そうだったわね」
考えるのはあとにしてお湯で顔を洗い、豚の毛で作らせた歯ブラシ(振動を付与させてます)で歯を磨いた。
終われば服を脱いで真っ裸に。マレアに体を拭いてもらう。
「早くお風呂が完成しないかしらね」
「相変わらず人に拭かれるのがお嫌いのようですね」
「別に嫌いじゃないわ」
おっぱいぷるんの子にされたら一時間くらい拭いてもらいたいわ。ただ、マレアに拭かれてもね~。萎えるだけだわ。
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