第13話 呼び鈴
まあ、ぶっちゃけると、指輪にライターの能力を付与するのって微々たる魔力なのよね。
タバコに火をつけるだけなんだから、そう難しくもない。わたしの魔力を千とするなら指輪に付与するのは0.1、くらいかしらね? 指輪にちょんと触れるだけでできちゃうわ。
じゃあ、なにを大袈裟に言っているかと言えば、他にも付与するものがあるからよ。
わたしは、ちゃんとしたインフラが整備されたところでおっぱいや巨乳に囲まれて──失礼。心穏やかにスローライフを送りたいの。そのためにも魔力はそちらに使いたいってことなんですよ。
「アマリア。もういいわよ」
壺に魔力を籠め始めて四日。籠めるのも慣れてきて、いっきに魔力が半分になっても疲れたと言う感じもなくなったそうよ。
魔力は体力と同じ。走ったら疲れるし、ゆっくり歩けば体力の低下もゆっくりだ。魔力を少しずつ溜めていけば放出と回復のバランスがよく、いっきに溜め籠めるよりは多くの魔力を溜め籠められるのよ。
ただ、わたしが必要としているものは魔力がかかるものばかり。いっきに付与しないと望む効果が出ないのよね。
「お嬢様。もっと溜め籠めますよ」
「そう急くことはないわ。魔力放出は体に負担をかけるもの。少しずつ慣れていかせたほうが魔力増加にもなるし、効率よく放出できるようになるのよ」
これ、わたしの経験談。事実かどうかは知らないわ。
「魔力量は決まっているのではないのですか?」
「別に固定されているわけじゃないわ。人は成長する生き物。体と心に限界はあっても限度を決めるのは自分よ。伸びないと決めつけてなにもしないのは怠慢であり、自らの成長を阻害していることよ」
わたしも魔力量は二級と判定されたけど、今では一級の魔力量になっているはず。昔と比べて二倍のことができているからね。
ベルを鳴らしてメイドを呼ぶと、しばらくしてマレアがやってきた。
……あなた、今は客の身分なんだから大人しくしてなさいよ……。
「あなたも仕事をしてないと死んじゃう病気にでもかかっているの? せっかく田舎にきたんだからゆっくりしてなさいよ」
この館は広いけど、それほど仕事がある……わね。わたしが任せっきりにしてるもの。ごめんなさいね。
「そうかもしれませんね。それで、如何なされましたか?」
「今日の分ができたから王都に送ってちょうだい」
アマリアの魔力をいただけるようになったから生産量を二十個から五十個に増やし、毎日できたら送ってもらっているのよ。
「これで主要なところには送れるわね」
二百もどこに送るかは知らないけれど、葉巻を吸う人って結構いるね。将来、肺癌になっても責任をこちらに押しつけないでもらいたいものだわ。
「はい。ですが、王都で流行ったものはいずれ地方から地方へ。やがて諸外国にも流れるかと思います」
ハァー。選択を間違えたみたいね、わたし。
「誰よ? 葉巻は紳士の嗜みとか言ったバカは」
「現国王ヒードリッヒ様です」
うん。国王様じゃ文句も言えないわね。マレア、告げ口したらイヤよ。
「ですが、女性陣にはあまり好まれていないのも事実です」
「そうね。葉巻なんて肺を悪くするだけのもの。お母様に空気清浄の壺でも送っておこうかしらね?」
壺なら部屋の外観を壊すこともない。一つか二つ付与して送っておきましょう。
「それも売り出すのですか?」
「やらないわよ。わたしの体は一つなの。アマリアがきたからってやれることは限られているもの。付与魔法の使い手、魔力、資金を出してもらえるなら多少なりとも増産はできるかもしれないけどね」
わたしの付与魔法はチートだ。これこれこう言うのをと、イメージするだけでいい。でもそれは魔力があってこそ成せるチート。まったく、神様も魔力無限とかにしてくれたらいいのに。ってまあ、神様に会ったこともないし、神様から授けてもらった能力かもわからないけどね。
「そうですか。では、これは簡単に創れるものなんでしょうか」
スカートのポケットから呼び鈴(受け側)を出した。
「誰のを持ってきたのよ? メイドを呼ぶものなんだから」
「はい。ラティアが実家に帰りたいと申し出てきたのでわたしが預かりました」
ウソおっしゃい。そう誘導して取り上げんでしょうが。
「まあ、対となる呼び鈴があれば簡単よ」
ただ、片方を鳴らしたらもう片方が鳴るだけものだからね。
「それも創れと?」
まだ転移の指輪すら手につけてないのに。
「可能であれば」
いったい誰が欲しがってんのよ? と言いかけて止めた。これは訊いちゃいけない類いへのものだっと察したからね。
「これは離れすぎると鳴らないし、籠めた魔力により回数も変わってくるわよ」
固定化させる付与はとにもかくにも魔力を必要とする。長く使おうとしたら丸一日分の魔力を籠めなくちゃならないでしょうよ。
「構いません。十対をお願いできますか?」
「貸しにしておくわ。ただ、呼び鈴の代えがないから取り寄せてちょうだい」
呼び鈴を持たせているのはわたしの身の回りを任せてあるラティアとマーナだけだ。王都の屋敷からパクってきたものに付与したのよ。
「はっ。すぐに用意致します」
その口振りからして配下の者か王宮の影を何人か連れてきてるっぽいわね。
まったく、マレアは仕事を増やしにきたのかしらね?
「アマリア。昼まで休みましょう。お茶とお菓子を持ってきてちょうだい」
「はい。畏まりました」
アマリアが部屋を出ていき、引き出しからクッキーを出して口に放り込んだ。
もう眠って回復することもなくなったけど、魔力を使うとお腹は減る。ナディア、今日はなにを作っててくれるのかしら?
クッキーを食べながら運ばれてくるのを楽しみにしながら待った。
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