第16話 冒険者
職人たちの手を借りてゴーギャンが館に運ばれてきた。
いや、別に運んでこなくていいのよ。なんてことも言えず、皆に労いの言葉をかけた。と言うか、よく運んできたものね。三百キロは余裕であるんじゃない?
「ガイル。捌ける?」
うちの料理人に尋ねる。
「申し訳ありません。おれでは無理です」
まあ、そうよね。料理人だからってなんでも捌けるってこともないだろうし。
「村にいる冒険者に頼んではどうでしょうか?」
「冒険者?」
いるとはマゴットから聞いていたけど、近くの村にもいたのね。大きい町にしかいないと思ってたわ。
「では、呼んでちょうだい。報酬はマクライと相談して」
そこら辺のこと、なにも知らないのでね。
「わかりました。すぐに呼びにいかせます」
そう言えば、うちに馬がいなかったわね。一キロくらいとは言え、走っていくのは大変だし、わたしもいくかもしれない。連絡用の馬を何頭か買っておくべきね。わたしも乗ってみたいし。
「アルド。安全のために今日は仕事を中止してちょうだい。あと、うちに武器なんてあったかしら?」
一応、わたしの護衛たる引退した兵士、マージに尋ねた。
「お嬢様からいただいた剣だけです」
うん。田舎でのスローライフ、舐めてました。ごめんなさい。
「アルド。わたしの背くらいで、握りやすい棒を三十本くらい削ってちょうだい。すぐに」
「わかりやした」
ここはアルドに任せてわたしは朝食とする。もうお腹が空きすぎて倒れそうだわ。
食堂に移り、朝食を出してもらっていただいた。
朝から凄い量だけど、このくらい食べないと魔力は回復してくれない。大食い令嬢とか広まりそうね。
貴族は魔力を持つけど、使う場はそれほどない。騎士や武官なら使うけど、貴族のご令嬢が使うなんて魔力溜まりを起こさないよう放出するくらいかしらね? そのときにちょっと多く食べるくらいでしょうよ。
三人前くらい食べてお腹が満ちた。ふー。食べた食べた。
お茶を飲みながら食休み。お腹が落ち着いたら一時間くらい朝寝。アマリアがくる前は昼近くまで眠っていたものよ。
右のイヤリングが震えて目が覚めた。あ、これ、目覚ましです。
呼び鈴を鳴らすと、マレアがやってきた。
……いい加減、呼び鈴をラティアに返しなさいよ……。
「外はどう?」
「冒険者がきて解体しているところです」
「そう。ゴーギャンって美味しいのかしら?」
解体しているってことは食べられるってこと、だと思う。美味しいならわたしもご相伴に預かりたいものだわ。
「村ではご馳走らしいですが、臭みを消すのに何日か寝かすそうです」
まあ、熟成期間は必要か。
「それと、皮はどう致しますか? ゴーギャンの皮は貴重で高額で取引されるそうです」
「村に進呈して。肉も余ったらわけてあげてちょうだい」
なにかと助けてられているからね。こんなときに還元しておきましょう。
歯を磨き、顔を拭いたらドレスに着替えた。
先ほどはウォーキング帰りだったけど、大勢の前に立つときはフォーマルなドレスに着替える。お嬢様業も大変だわ。
マレアに最終確認してもらったら外に出た。
「作業は続けて」
マクライが冒険者に挨拶させようとしたので、先に制して作業を続けさせた。
連れてきた冒険者は四人で。二十歳をちょっと過ぎたくらいの年齢で、女性も一人混ざっていた。
……貴族社会も大変だけど、一般庶民の生活も大変みたいね……。
生きやすい場所なんてそうないでしょうけど、せめて男爵家に生まれていたらもっと自由に生きられてただろうな~。ほんと、伯爵令嬢とか中途半端なのよ。
「お嬢様。こちらに」
パラソルと椅子を用意してくれたみたいで、そこでゴーギャンの解体を見守った。
ご令嬢が解体を見守るとかあり得ないみたいで、冒険者たちがわたしに戸惑いの目をこちらに見せていた。
あ、身分ある者が見てるってプレッシャーかしら? あちらからしたら雲の上の存在だものね。
「慣れたものね」
まあ、解体が見たいので引かないけど。我慢あそばせ。
こちらを気にしながらも解体の手は止めず、三十分くらいで終えてしまった。正味一時間くらいで解体しちゃったみたいね。
「ご苦労様。突然呼んでごめんなさいね。助かったわ」
「いえ、仕事をいただきありがとうございました」
リーダーなのか、体格のよい男性が代表して片膝をついて答えた。
「そう緊張しなくてもいいわよ、と言っても無理でしょうから、失礼がないていどで構わないわ。村にはなにかとお世話になっているからね。あとでお礼の手紙を村長に出しておくわね」
「はい。わたしどもからも伝えておきます」
「ええ。そうしてちょうだい。そうだ。今回の報酬とは別にあなたたちにお礼をするわ。剣を貸してもらえる?」
剣に付与ってマージの剣にしただけ。ちょうどいい機会だから練習しておきましょう。
「マクライ」
さすがに直接は渡せないでしょうからマクライに繋いでもらった。
マクライに持ったままで、剣に付与を施した。
「剣の強化と切れ味が増すよう魔法をかけたわ。そう無茶な使い方をしなければ一年は持つでしょう。試しにそこにある薪でも斬ってみなさい」
剣を返し、半信半疑のリーダーさんが薪割りをするように剣を振るった。
スパン! と綺麗に薪が割れた。うん。ちょっと強すぎたわね。もう少し弱くてもいっか。
「……安物の剣なのに……」
それが付与魔法なんですよ。
「じゃあ、他の人の剣もしちゃいましょうね」
残り三人の剣にも強化と切れ味を増す付与を施した。
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