第10話 採用!

 今日もまたお父様から届いた。


 文字数は多いけど、ようやくしたら数文字で済む。早くして! ってことよ。


 あちらにも事情があることはわかる。けど、こっちにも事情はあるの。打出の小槌が創れるならとっくに創って生産しているわ。


「催促にあなたを使うとはね」


 それだけ切羽詰まっているってことでしょうよ。


 いつもの手紙はカルディム家が雇っている兵が運んでくる。王国の内部に位置する領地でも魔物が出たりするからね。まあ、弱い魔物なのでそれなりの戦闘力を持っている者なら問題にはならないけど、今回手紙を持ってきたのはメイド頭のマレアだ。


 齢六十ながらカルディム家の奥を仕切る女傑。唯一、わたしが頭が上がらない人だ。初めてわたしを盥で洗った人でもある。


「はい。それだけ旦那様が困っておりました」


「と言われてもね~。できることとできないことがあるのよ。わたしの魔力は有限。一日に使える量は決まっているの。ないドレスの裾はつかめないのよ」


「はい。ですので、魔力を持つ者を連れて参りました。お嬢様であれば他人の魔力でも使えるのでしょう?」


「まあ、直接は無理だけど、他人の魔力は使えるわね。けど、今の状況でわたしがもう一人いても焼け石に水。と言うか、指輪を作らなきゃ始まらないのよ」


「ですので、指輪を持って参りました」


「指輪を? どこからよ?」


 昔、集めた指輪ですら集めるのに三年は費やしたのよ。


「アザイヤからです」


 まさかの名前に顔を強ばらせてしまった。


「……よく、わかったわね……」


 これだからマレアには頭が上がらないのよね。わたしの企みをすぐ見抜いちゃうんだから……。


「火事の件はあまりにも不可解なことばかりでしたから」


「完璧だと思っていたのだけれどね」


 屋敷に火をつけ、火傷を負うなんていう都合のよいことが起きるなんてことはない。ましてや当時からマレアはメイド頭。火の始末は完璧だったわ。


「メイドには優しいお嬢様が唯一アザイヤだけは嫌っていました。なにか不始末をしていたわけでもないアザイヤに」


 メイドをいじめ、その恨みで屋敷に火をかけ、わたしを殺しましょう計画は、アザイヤがメイドとして屋敷にきた頃から始めていたわ。


「アザイヤの身元を調べさせました。アザイヤには難病の弟がいましたが、火事のあとで完治し、マルセイアへ家族とともに引っ越しました。そして、投獄されていたはずのアザイヤが消えました」


 どんな調査力を持っているのかしらね、マレアは? 一介のメイド頭なのに……。


「マレアは昔、暗殺者か影でもしていたのかしら?」


「やはり、お嬢様は勘づいておりましたか」


 いや、嫌味で言ったんですけど! マジだったの!?


「カルディム家に仕える前は影として王宮に仕えておりました」


「王ではなく王宮、ね。まだ繋がりがあるの?」


 いや、あるのでしょう。投獄されているアザイヤのことまで調べているんですからね。


「いえ、答えなくていいわ。わたしは王宮と関わりたくないしね」


 わたしはおっぱいを──じゃなくて、スローライフを送りたいのよ。国の暗部になんか触れたくないわ。


「賢明です」


 ほんと、なんで可もなく不可もなく、極々普通の伯爵家に仕えたのかしらね。うちに、国家反逆罪を犯している人でもいるの?


「で、わたしは罰せられるのかしら?」


「いいえ。アザイヤの犯罪と処理されたものを覆すことはできません」


「どうにでもなるでしょう」


「お嬢様相手でなければどうにでもなるでしょう。しかし、お嬢様はそれをいいことに消えてしまうでしょう? 自分の顔を焼いてまで目的を達成してしまうお方ですから」


 随分と高く買ってくれること。わたしは、自分の操を守っただけなんだけどな~。


「じゃあ、あなたの後ろにいる人は不問てことにしたってことね?」


「はい。これは恨みから行ったこと。一伯爵令嬢が傷を負ったにすぎませんので」


 やだ、否定してよ! わたし、マレアの後ろにいる人に目をつけられたってことじゃないの! 止めてよ、ほんと!


「……そう。それはよかったわ。望みは?」


「アザイヤに渡した指輪を二つ、可能なら四つ、欲しいそうです」


「わたしが二十人もいたら創れるわよ。あれを用意するのに五年も費やしたのだからね」


 元々はお忍びで使おうと思って考えたのだけれど、この世界の転移、めっちゃ魔力を使う。遠ければ遠いほど魔力は食うのよ。


 アザイヤに渡した指輪も一キロが限界。だから協力者を雇ったり、投獄される場所の近くに隠れ家を作ったりと、ほんと、大変だったわ。


「さすがに二十人分は無理でしたが、十人分の魔力を持った者を連れて参りました」


「わたしの十人分? それ、もう特級よね? この国に特級魔力保持者は五人しかいないはずよ」


 わたしが調べた限りでは大魔導師のライゼント様。宮廷魔導師のサイナ様、アイルメック騎士団の団長、ロガフィック様。タイメリック公爵の令嬢、アリエイラル様。そして、第一王子、ロンメル様だ。


「それは人の特級であり、他種族には当たりません」


 他種族? 


「まさか、魔族とか言わないわよね?」


 人類の敵であり、海の向こうに住むとされる魔力を膨大に保持するとされる種族。確か、昔の勇者が海を渡り、魔族を捕まえてきたと本で読んだことがあり、たまに魔族が出たと騒ぎが起こっていたわ……。


「ご明察です」


 なんで否定したいことばかり事実になるのかしら? わたし、前世でどんな重罪を犯したのよ! 


「入りなさい」


 わたしが口をパクパクさせている間に、その魔族が入ってきた。


「うん! 採用! わたしの側近にします!」


 ロリ巨乳、いただきました~!

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