都市伝説

「それでね、友達が、しきりにコンビニに行こうって言うんだって。で、仕方なく主人公は友達とアパートを出るの。そうしたら、友達が真っ青な顔で警察に電話しようとするんだって。どうしたのか尋ねると、ベッドの下に、刃物を持った男が……」

「えっ、それで、その後どうなったの?」

「結末はいくつか違いがあるんだ。男は存在しなかった、とか、実はストーカーの男だった、とか」

「うわ、戸締り気をつけよう」

「日本でも実際にあったらしいよ」

「都市伝説じゃなくて?」

「事件。まあ捕まったらしいけど。本当、あんたも気をつけなよー」

「やだ怖い。人間めっちゃ怖い」

「そうだよ。何だかんだ言って、一番怖いのは人間なんだよ。あ。そうだ。さっき帰る時にさー、あんたの部屋にハンカチ忘れてきちゃったみたいなの。これから取りに戻ってもいい?」

「あー……明日にしてもらってもいい?もう暗いし、そんな話聞いたらなんか……事件とかあったら嫌じゃん?」

「それもそっか。じゃあ明日ね」


 そう言って通話は切れた。私はほっと胸を撫で下ろす。


 だって、驚いたんだもの。突然知らない男が背後にいたから。たまたま料理をしていて包丁を持っていたから、本当に、とっさに。私が悪いわけじゃない。怖かったんだもの。これは、正当防衛。そうよ、正当防衛なの。

 ああ、これからどうしよう。警察に電話しなきゃいけないと思うのに、怖くて通話ボタンが押せない。


 気まぐれな友達が、「やっぱり取りに来ちゃった」なんて、訪ねて来ないといいんだけど。そうしたら私は、どう説明すればいいのだろう。電気を消してそっとやり過ごすしかないのかしら。


「電気をつけなくてよかったな」なんて。それこそ都市伝説じゃあるまいし。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る