「ハロウィンの魔女になりたい雪女ちゃん」

あき伽耶

「ハロウィンの魔女になりたい雪女ちゃん」

 雪女ちゃんは、とてもねぼすけです。

 でも今年は、秋に目がさめてしまいました。

 こんなに早おきしたのは、はじめてです。

 いつもは、山の中がうっすら白くなると、目がさめるのに。

 となりを見ると、いつもあそんでくれるおかあさんは、まだぐうぐうねています。


「つまんないのー」


 雪女ちゃんは、ふもとの町へおでかけすることにしました。

 おうちをでると、はっぱは見たこともない赤や黄色に色づいていました。


「わあ、きれい!」


 雪女ちゃんは、ふわふわゆらゆら、と木のあいだをぬけながら、とんでいきました。

 白いきもののすそが、はたはたはた、とたなびきます。


 町について、雪女ちゃんはびっくり。

 いつもは、やねもみちも白くなって、人間たちはおうちの中なのに。

 たくさんの子どもたちが、おかしなかっこうをしています。

 白いぬのを あたまから足までぐるぐると体にまきつけていたり。

 赤い耳と、黒いコウモリの羽と、長いしっぽをはやしていたり。

 あたまに、ぎん色のぼうをつきさしていたり。


「へーんなの」


 だけれど、雪女ちゃんは、おきにいりを見つけました。


 女の子が、黒いさんかくぼうしをかぶって、黒いワンピースをきていました。

 ワンピースのすそは、ひらひらひらっ、とひろがってゆれています。


 雪女ちゃんは、そばにいたおばあさんにたずねました。


「ねえねえ、おばあちゃん」


 おばあさんは、雪女ちゃんを見て、しわしわのほそい目をぱちっとあけました。

 そして白いきものに、赤いおび。赤いはなおのぞうりをはいた、黒くて長いかみの毛の、かわいい女の子をまじまじと見ました。


「おやまあ、いまどきめずらしい」 


 雪女ちゃんは黒いワンピースの女の子をゆびさしました。


「あれは、なあに?」


「ああ、魔女だよ」


「まじょ?」


「ああそうさ。ほうきにのって空をとんだり、魔法をつかって人をおどろかせたりするんだよ」


 雪女ちゃんは決めました。


「わたし、まじょ、なりたい」


「そうかい、そうかい」


「おばあちゃん、おしえてくれて、ありがとう」


 おばあさんにていねいにおれいをいうと、雪女ちゃんはおうちまで、ふわふわゆらゆら、なるたけ早くとびました。


 おうちにかえった雪女ちゃんは、いそいでしたくをします。


 たんすの中から、白いきものをありったけ出しました。

 きものの上から、きものを着て、そのまた上にも、きものを着ました。

 いっぱい着たきものの上から、さいごに赤いおびをきゅっとしめました。

 そうすると、あらふしぎ。

 いつもはストンとまっすぐな きもののすそが、ごわごわふわっ、と広がったではありませんか。

 それから雪女ちゃんは、黒くて長いかみの毛の先っぽをむすびました。

 そうして、マツの木のヤニをごしごしつけて、かみの毛をさかさまにしてひっぱると、ぴーんと三角のかたちになりました。

 木のえだをいくつかひろって、それをなわでぐるぐるとくくりつけると、りっぱなほうきもできあがりました。

 雪女ちゃんは、たのしくてしかたありません。

 おおあわてで、ほうきにまたがると、ふわゆらぴゅうっ、とふもとの町へといそぎます。


 そのときです

 黒い三角ぼうしに黒いワンピース、ほんもののほうきにのった女の子が、空をぴーゅっ、といきおいよくとんで、雪女ちゃんのところにやってきました。


「ねえねえ、あなただあれ? 見かけないかおね?」


「わたし、やまの、ゆきおんなまじょ」


「わたし、この町のたんとうの魔女で、マージョよ」


 マージョは雪女ちゃんをじろじろと見ました。

 だって、ほんもののマージョから見たら、とってもかわったかっこうだったのですから。


「なんか、おもしろいかっこうね。でもいいんじゃない? ねえ、ゆきおんなまじょ、ちょっとてつだってくれない?」


「おてつだい?」


「町のみんなをおどろかすの。ハロウィンの日の、わたしたち魔女のしごとよ!」


 雪女ちゃんは、マージョのあとをわくわくしながらついていきました。

 マージョは、たくさんの子どもたちを足の下に見ながら、ほうきにまたがって、びゅーっ、と飛びます。

 雪女ちゃんもあとにつづいて、お手せいのほうきにまたがって、ふわゆらぴゅうっ、と飛びました。

 みんなは大さわぎです。


「わあ、ほんものの魔女だ!」 

「飛んでるよ!」

「すごいすごい!」 

「黒い魔女と白い魔女だよ!」


 雪女ちゃんも、うれしくなって、みんなにいいました。

「みて―、みてー。わたし、まじょですよー」


 マージョのワンピースがひらひらひらっ、と風でゆれます。

 雪女ちゃんのきもののすそが、ごわごわふわっ、と風でうごきます。


 雪女ちゃんは、みんなのちかくにまでいってみたり、くるりとむきをかえてみたりしました。みんなはそのたびにおどろきました。


「ゆきおんなまじょ、おどろかすのはうまいわね」


「うん、わたし、ゆきおんなちゃんだもん」


 雪女ちゃんは、むねをはりました。


「そろそろ、魔法の時間よ!」


 マージョはそういうと、お空からたくさんのおかしをふらせました。


「こんどは、あなたのばんよ」


 雪女ちゃんは、ちょっとかんがえたあと、マージョと同じようにお空から、雪をふらせました。


 お空からふってくる、おかしと雪にみんな大かんげき。

 よろこぶ声が町にひびきます。


「なかなかやるわね、あなた」


「うん、わたし、ゆきおんなちゃんだもん」


 雪女ちゃんは、えっへんと鼻がたかくなりました。


 気がつけば、お空はもうあかね色です。

 お母さんもそろそろおきているかもしれません。

 雪女ちゃんは、おうちにかえることにしました。


「あなたがすごい魔女だっていうのはわかったわ。でもね、そのぼうしだけは、なんとかしたほうがいいわよ」


 そういってマージョは自分のぼうしと、おかしをいっぱい雪女ちゃんにくれました。


「おてつだいのおれいよ」


「ありがとう」


「ゆきおんなまじょ、よかったら来年もおてつだいしてくれない?」


「うん! またくるね」


 雪女ちゃんは、おかしをいっぱい入れたきもののたもと・・・をゆらしながら、バイバイと元気に手をふりました。


「また、らいねん、ねー!」




 さて、来年もおやくそくした雪女ちゃんですが、みなさんおぼえていますか?

 雪女ちゃんは、ねぼすけです。

 本当に、ちゃんと来年も目がさめるでしょうか?

 だいじょうぶ。

 楽しいことがあると、だれだってちゃあんと目がさめてしまうものです。

 それにね、この冬、雪山の中で三角ぼうしをかぶった小さい雪女に会った人が、たくさんいたんですって。

 だから、きっと、だいじょうぶ。


 しんぱいごむよう。

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「ハロウィンの魔女になりたい雪女ちゃん」 あき伽耶 @AkiKaya

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