02 令嬢はこうして婚約破棄をされた
リリアが育ったミユリス家は、子爵家の貴族だ。
父親は、ノーステリア王国の北部を領地として治める【ミユリス領】の領主。
母親も同じ子爵家の娘で、ミユリス領から東の【クレスト領】の先代領主の娘で、昔は王宮魔術師を務めていた。
リリアは次女で、長女のフレアと三女のメルアの三姉妹でもある。
そんな中で三姉妹は、それぞれ見合いによって婚約する事となった。
メルアとフレアは、相手側が婿養子となってこのミユリス領を継ぐと言う話で折り合った。
一方で、リリアは南の貴族の【サンドール伯爵家】に嫁ぐことになったようだ。
両親はそれに反対したのだが、相手は伯爵家。
リリアの嫁ぎを受け入れるしかなかったのだ。
当時は明るかったリリアは、向こうでも好かれていたのだ。
「そうか。 向こうでもリリアは好かれているのだな」
父親は、リリアが幸せなら、それでいい。
そう思っていたのだ。
「相手が伯爵家でなければ、リリアを引き留めてあげれたのに……、この後が怖いわ」
しかし、母親はリリアが16歳になった時の教会から行われる儀式が怖いのだ。
婚約者相手のサンドール家の息子はあまりいい噂を聞かないという。
それを知ったのが、職業適性の儀式を行う直前だったという。
そして、リリアが16歳の時に、事件は起きた。
16歳になった国民は、教会で職業判定の儀式を行う事が義務付けられている。
リリアもそれに従い、教会で職業判定を行った。
「あなたの職業適性は、【錬金術師】です」
神父から告げられた判定結果が【錬金術師】。
ノーステリア王国は、どんな職業でも平等に扱う事を全国民に命じていたのだ。
しかし、サンドール伯爵家の……いや、サンドールの息子はそれが判明した途端、本性を露にしたのだ。
「はっ、まさか無能の【錬金術師】だとはな。 リリア、残念だよ。 僕の家には無能な職業は不要なんだ」
「お、おい、あいつとち狂った事を……!」
神父や周囲がいるにも関わらず、サンドールの息子は堂々と錬金術師を無能と断じたのだ。
「何を言ってるのです! 王家からはどんな職業でも平等に扱う事を命じられてます! その発言を取り消しなさい!」
「否! 断じて取り消す気はない! 僕はね、そんな王家が大っ嫌いなんだよ。 優秀な職業のみが世界に残るべきなんだよ。 錬金術師は何が優れてるんだい?」
「この世界で重要な魔道具やポーションは皆、錬金術師の方によって作られているんですよ。 錬金術師は国民の生活に必須な職業なのですよ」
「そんなのは魔術師や聖女がいればいいだけだ。 錬金術師など必要ないだろうが!」
神父やシスターとサンドールの息子が言い争っている。
サンドールの息子は現在のノーステリアの王家に対し、真っ向から対立している。
彼は優秀な職業だけが世界に残すべきで、錬金術師などの無能な職業はいらないと言う。
「こいつ、もしやあの国と……」
「とにかく、僕はリリアとの婚約を破棄させてもらうよ! 無能な女など、要らないからな! おい、やれ!!」
「ははっ!」
「やめなさ……」
シスターが止めようとするが、間に合わずリリアは意識を刈り取られた。
彼女はずっと、立ち尽くしておりなにも言い返せないでいた。
いや、反論すら彼の前ではさせてもらえなかっただろう、
シスターや神父が介入するまでは……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「リリア、大丈夫かい!?」
「父様……」
次にリリアが目覚めたのは、メルアの婚約者のいる【メルロード領】と【ミユリス領】の境界線上にある町の病院だ。
何で自分はここにとリリアは考えていたが……。
「姉様ッ!!」
「リリアさんっ!!」
メルアとその婚約者のセイル・メルロードが病室に入って来た。
「二人とも、ここは病室だよ。 静かにしなさい」
「あ、ごめんなさい」
父親に窘められて、二人はシュンとする。
その二人を尻目に、父親はリリアに説明する。
「リリアは、セイル君の生まれた【メルロード領】と我が領の境界線上にあるこの町から北の森でボロボロにされた状態で発見されたんだ」
リリアはそれを聞いた瞬間、身震いした。
あの後、意識を刈り取られた状態で殴られたんだと……。
「姉様、何があったのです?」
「実は……」
心配したメルアもリリアに何があったのか、気になった。
リリアはそこで自身に起こった事を打ち明けた。
その後の父親の行動は早かった。
転移で、王都に向かいそのまま王家に婚約破棄をされた事とその理由を報告したのだ。
王家はそれを聞いて、即座にサンドール家を調査。
サンドールの息子は、父親に黙って婚約破棄をした事と職業差別をした事で重罪となった。
さらにその家族も連帯責任として、辺境の鉱山で生涯全てをそこの労働に捧げるように命じて、その一家の領ごと取り壊した。
かつてのサンドール領は今は王家が管理している状態だ。
しかし、リリアは意識を刈り取られた後での暴行の影響で、彼女の心は既に砕かれてしまった。
それを知った家族は、リリアをよろず屋で物を作る役を与えて少しでも気を紛らわすようにさせたのだ。
そして、今に至るのである。
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