婚約破棄された錬金術師の令嬢は、【タンカー】の男に恋をする
イズミント
01 その少女は錬金術師につき
ここは、北の大地の王国である【ノーステリア】。
冬には雪が積もり、夏には酷暑という一気に環境が変わる厳しい国。
その国の王都から、北にある【ミユリス領】には、領主が店を営むという変わった町がある。
その町の名は、【ミユリーナ】。
そこにある領主の館兼よろず屋【リデル】の一つの部屋にある作業をしている少女がいた。
「よし、完成。 これくらい作ればいいかな? 父様に報告しないと……」
少女は、ある物を多数作り終え、これから彼女の父親に報告する所だ。
「父様。 ミニポーションを20個作り終えました」
『済まない、我が娘リリア。 すぐにアトリエに取りに行くよ』
水晶玉で、販売用のミニポーションを作成したという報告をすると、彼女の父親がすぐに取りに行くと返事をしてきた。
それからすぐに扉をノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
少女……リリアがそう言った後にアトリエの扉が開かれて、そこには父親だけでなく、母親やリリアの姉妹らしき少女達がいたのだ。
「ミニポーション20個分、そこに置いてます」
「済まないね。 これで、今日の営業は保てるよ」
箱の中に置かれていたミニポーションを父親が運ぶ。
それと同時に母親が、リリアを見て気になったようで、間を置いてから話し始める。
「リリア、あなたはあまり休んでないんじゃない?」
「そんな事は……」
「姉様、私にも分かります。 姉様の魔力が淀んでます。 このままだと、姉様は倒れてしまいます」
「それでも……、物を作り続けないとやってられない。 私が【錬金術師】だから……」
「リリア……」
母親や妹である少女から心配されているが、リリア自身が【錬金術師】である以上、無理してでも作り続けないとやってられないらしい。
それはある意味、自身を憎んでいるかのように。
「でも、今は休むべきよ。 貴方の身体はいつ壊れてもおかしくないレベルよ。 全く寝てないでしょ?」
「寝られないから。 寝たら悪夢を見るから」
今度は別の少女が、リリアを心配する。
話し方からして、リリアの姉だろう。
リリアが全く寝てない為に、このままでは身体が壊れると心配する姉をよそに、淡々とした口調でリリアは返事する。
彼女は、寝たら寝たで、悪夢を見るのだそうだ。
何が原因でそうなったか、母親や姉妹は知っているようで、リリアの返事を聞いて俯いていた。
「とにかく、今は休む事。 アロマを用意しておくけから、自分の部屋に戻って休みなさい。 いいわね?」
「……はい」
納得しかねる表情をしていたが、母親の圧で仕方なく休む事を受け入れ、アトリエを出て母親と共にリリアの自室に戻っていった。
「フレア姉様。 私は未だにあの貴族の息子が許せずにいます」
「私もよ、メルア。 あのどら息子、リリアが【錬金術師】と判明した途端に婚約破棄だからね。 まぁ、その貴族は取り壊されているけどね。 ノーステリアは職業差別は許さないからね」
「ですが、あのどら息子は対立国でかつ、職業差別が正義の王国の【サウスベイ】との繋がりがあったみたいですよ」
「ああ、一部の職業以外は無能扱いするあの国家ね。 元々、あのどら息子やその取り巻きは全ての職業を平等にという王家の考えを常に真っ向対立した差別主義だったからね。 あの国家もそこを突いたのでしょうね」
残されたリリアの姉妹……フレアとメルアは、リリアがああなるきっかけとなったあの婚約破棄をしたかつての貴族一家を未だに許せずにいた。
職業判定でリリアが【錬金術師】と判明した途端に一方的に婚約破棄をしたからだ。
王家による断罪で、今はその貴族一家は取り壊されて存在しないのだが、その貴族一家の息子が一部の職業以外は無能扱いする事こそ正義とする【サウスベイ】という南の大地の王国との繋がりが、追加調査で明らかになった。
元々、あの貴族一家の息子とその取り巻きは職業差別主義を掲げており、全ての職業を平等にという王家の考えに真っ向対立したから、サウスベイ王国はそこを取り入れ、差別主義を拡大しようとしていたのだろう。
「リリア姉様に新たな出会いがあるといいんですが……」
「厳しいでしょうね。 リリア自身があの婚約破棄から変わってしまったから。 昔は明るい子だったのに……」
フレアとメルアは、リリアに新たな出会いをしてほしいと思う反面、あの婚約破棄事件のせいで彼女の性格が変わってしまった事で難しくなった事実を受け入れるしかない状況に頭を抱えていたのだ。
だが、リリアはおろか、この姉妹も知らない。
この一週間後で姉妹と共に材料の採取に勤しんでいる所に行き倒れた男性を発見する事を。
これによってリリアの人生に再び花が咲くことを……。
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