28話 手段と目的
ギルドの図書室にやって来たリベリカは、さっそく作業机に文献の山を築き、次回のカンファレンスに向けて狩猟
ギルドへ新たに持ち込まれたクエストは、鳥型モンスターの討伐依頼が2件。
次のカンファレンスではこの2件を各チームで受注争いすることになる。
かれこれ一時間は資料を読み込んだリベリカだったが、読めば読むほど内容に違和を感じて頭がこんがらがっていた。
「自分で狩猟計画を考える」と大口を叩いた早々にアリーシャに頼るのは決まりが悪いが、ここで意地を張って次の案件を逃すなんてことになったら目も当てられない。
リベリカは恥を忍んでアリーシャに質問しようと心を決めた。
隣の席で同じ資料を読んでいるはずのアリーシャは、珍しく集中しているのか、それとも図書室でのTPOをわきまえているのか、物音ひとつ立てていない。
どちらにせよ驚かさないように……と、そっと様子を覗き見て、
「寝るなっ!!」
「んがッ⁉」
爆睡していたところを丸めた資料でスパンとしばくと、一拍遅れてアリーシャが頭を上げた。
「なに……?」
「なに?じゃないです起きてください」
「まだねむい――いでででで! ギブギブゥ!」
寝ぼけ眼だったアリーシャはリベリカに
「それで何かご用です?」
「まったく……他人事みたいに。新しい狩猟依頼ですけど、おかしなところがあるのでアリーシャさんの意見を聞こうと思ったんです、が」
「ごめんなさいまだ見てません」
「だと思いました。ほら、これ見てください」
アリーシャに自分の資料を手渡して、メモ書きを加えていたページを見るように促す。
リベリカが頭を悩ませていたのは、狩猟依頼のターゲットに関する内容だった。
「ギルドから提示されてる今回の2つの依頼、狩場もターゲットも同じなんですけど、それぞれ違う依頼ってことになってるんです」
「たまたま同じモンスターの討伐依頼が被っちゃったとか?」
「私はそれを疑ってます。ただ、基本的にギルドでは依頼の重複が起こらないように事前調査をしているはずなんですよ……」
資料を一枚めくってターゲット個体の調査結果に目を通しているアリーシャ。リベリカは悩ましい声で続ける。
「ターゲットの推定サイズを見比べると微妙に差はあるんです。もはや誤差ってレベルですけど」
「たしかに。ほとんど同じだ」
「なのでやっぱり、この2つは同じモンスターの討伐依頼が被ったってことですかね?」
結論付けようとしたリベリカだったが、アリーシャが返事もせずに資料を睨みつけている姿を見て、しばらく反応を待ってみる。
資料に視線を落としたまま、アリーシャが口を開いた。
「これ、それぞれ違うモンスターなんじゃないかな。目撃情報で報告されてる毛並みの色が微妙に違うのが気になって」
「毛の色なんて光の当たり方で違って見えたりしませんか? そもそも同じエリアに同じ種類の大型モンスターが2体も棲んでるなんて聞いたことないですよ」
「そこも引っ掛かるんだよ」
アリーシャは2束の資料をパサリと机に投げ置いて腕を組む。
「この鳥型モンスターは何度か狩ったことあるけど、基本的に単独行動するモンスターなの。同じ場所に2体いるっていうのはおかしい……のに、ギルドがそれを知らないはずないよね」
「じゃあアリーシャさんの見解は」
「2つは違う個体の狩猟依頼だと思う」
結論と共に資料を返却され、リベリカは深く嘆息する。
それをアリーシャがキョトンとした目で見つめてきた。
「ため息ついてどうした? 何に困ってるの」
「クエストの作戦ですよ。2つが違う依頼ってことは、同じ種類のモンスターなのに違う作戦を2つ考えないといけないじゃないですか。もういっそどっちも同じ戦術でいいですかね……」
「それはやめとこう」
先ほどまでの様子と打って変わって、アリーシャがはっきりとした口調で主張した。
不意に拒否をくらって目を丸くするリベリカに、アリーシャは続けて説明する。
「狩りの戦術はモンスター1体1体に合わせて考えないとダメ。戦術はあくまで手段だからさ、戦術ありきで考えるのは本末転倒だよ」
「……わかりました。それは肝に銘じておきます」
「だからさ、リベリカ」
アリーシャが優しい声音と共にリベリカの肩にトンと手を乗せて、
「作戦考える量は2倍になるけど、頑張って」
「あのーアリーシャさん。あなたも一緒に考えるんですよ?」
狩人の先輩であるアリーシャから教えをもらって、リベリカの心の中で久しぶりに湧いていた尊敬の念がきれいさっぱり吹き飛んだ。
甚だしく他人行儀なアリーシャにジト目を向けつつ、リベリカはかっくりと肩を落とす。
そんなリベリカを流石に不憫に思ったのか、アリーシャがスイッチを切り替えたように口を開く。
「まあ私も考えてみるから! ただ、そもそも資料の情報が間違ってる気がして、そこから確認したいんだけど……」
「どうでしょう。その資料はギルドの専門調査員が書いてますから基本的に間違いは無いと思いますけど」
「うーん」
それでも納得いかなさそうにアリーシャが唸る。
その直後、ドサドサドサァ、と付近で本が崩れ落ちる音がした。
ふたりが音の聞こえてきた方向に顔を向けると視界の中にその現場はすぐ見つかった。
図書室の書架から無数の本が崩れ落ちており、床に盛り上がった本の山ができている。
そして、その山の中から人の足が飛び出している。
周囲には他のハンター達が立っているが、好奇の視線を向けているだけ。
その場を動いて助けに行こうとする人物はひとりもいない。
「あの人埋まってる⁉ 助けないと!」
リベリカがすかさず駆け寄って山盛りになった本をよける。
その中から姿を現した人物は――、
「あ、あのときの少年じゃん」
先日、ふたりが街で遭遇したローブ姿の子供だった。
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