13話 捕獲クエスト開幕!(2/2)
「ギルドマスター! 少々ご確認いただきたいことがございます!」
駆け寄ってきたハンターは補給班のメンバーだった。
リベリカ達を押しのけるようにギルドマスターの前へ出ると、膝を立ててかしこまる。
「とつぜん騒がしい! 要件はなんだ」
「も、申し訳ありません! 実は備品を確認していたところ、事前打合せでは覚えのない物が混じっておりまして! どのような用途か確認させていただきたく!」
「リストにない物?」
ハンターは手に握りしめていた羊皮紙をギルドマスターの目の前で広げてみせる。
そこにはこのクエストで使用する道具や器具の一覧が載っていた。
「はい!
それを聞いた瞬間、ギルドマスターは深く長いため息をついた。
リストから目線をはずし、額に手を当て露骨に不快な表情で口を開く。
「何かと思えばそんなことか……くだらん。そんなものわざわざ私に報告するな!」
「も、申し訳ございませんッ!」
「どうせ誰かが間違って持ってきたんだろう。道具箱の中にでもツッこんでおけ!」
「承知いたしました!」
男は腰を90度に折り曲げて深々と頭を下げると、逃げ出すように後方へ戻っていった。
それと入れ違いになるように、また別のハンターが駆け寄ってくる。
「ギルドマスター! ご報告がございます!」
「今度はなんだッ!」
刺々しいギルドマスターの返事に一瞬ひるんだものの、やってきたハンターはすぐさま膝を曲げて畏まった態度で要件を口にする。
「依頼主の貴族様がご到着なされました!」
それを聞いた瞬間、ギルドマスターは血相を変えて立ち上がる。
「なぜ早くそれを言わん!」
「も、申し訳ございません!」
ギルドマスターが手を叩いて合図すると、
ある者は紅地に金の
身だしなみを整え終えると、ギルドマスターが召使いに「お客様をお通しせい」と一声かけた。
それからしばらくもせず、いかにもそれらしい2人組がやって来た。
ひとりは豪華絢爛な衣装に身を包んだ中年小太りの貴族の男。
もうひとりは貴族の従者らしく、黒の
ギルドマスターはさっきまでの横柄な態度を一変させて柔和な笑みを浮かべながらペコペコと頭を下げて会釈する。
「これはこれはパカマラ様っ! 本日はお忍びでご足労いただき誠にありがとうございます」
「うむ。本日はそなたの腕を拝見できると聞いている。楽しみにしていますよ」
「それはもう、勿体ないお言葉でございます。ええ、ご期待通りの狩りをご覧にいれてみせますので、どうぞあちらの特等席でお待ちください」
ギルドマスターが小声で「ほらご案内しろ」と指図すると、召使いが静かに貴族に歩み寄る。
「それではご案内いたします」
召使いに連れられて、従者と貴族は狩場の後方に向かっていった。
殺風景な野原にどう見ても異物でしかない赤い
一目でそこが貴族用の観覧席だと分かるくらいの目立ちようだ。
その一連のやりとりを程近くでぼーっと見つめていたアリーシャが呆れたような声で言った。
「ねーなにあれ。ここ観光地かなんかだと勘違いしてない?」
「アリーシャさん、思ったことなんでもそのまま口にするのやめたほうがいいです」
リベリカはあくまで中立の態度で応じたが、内心は同意100%だった。
狩りを見学したいなどと言い出す貴族はロクでもないヤツ。
そう思っていたがやっぱり予想通りだった、とリベリカは嘆息する。
今回はいくら金を積んだのか定かではないが、貴族の依頼は大概が常識外れの内容だ。
そしてギルド側も大金を貢いでくれる貴族たちとはズブズブの関係。
過去には「モンスターに襲われている村の救援依頼」があるにも関わらず、貴族からの「森に出かけるの息子の護衛依頼」を優先させるようなこともあったと聞いている。
金と権力にまみれたこのギルドはやっぱり間違っている。
リベリカはあらためて自分を取り巻く環境の異様さ痛感しつつ、これ以上アリーシャが問題発言を繰り出す前に退散するべく声をかけた。
「さあ、私たちも後方に下がりましょう。予定ではもうすぐ動きがあるはずです」
「はーいよ」
生返事するアリーシャを連れて、リベリカが待機場所に向かって歩き始めた――それとほぼ同じタイミングだった。
シュルシュルシュル。
何かが空へ打ちあがる音。
気付いたふたりが振り向いた先、森の上空で緑色の閃光がはじけた。
照明弾。
つまりクエスト開始の合図。
森に潜行していたハンター部隊が、ターゲットである
「始まった!」
リベリカはこれから再び対峙する因縁の相手を想像して、静かに拳を固く握りしめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます